目次
企業におけるコーチングカルチャーの構築は、従業員の能力開発やパフォーマンス向上・モチベーションの維持などに効果があるとされています。
本記事では、日本ではまだ馴染みの薄い「組織内でのコーチングカルチャー」を深く掘り下げ、従業員のエンゲージメントやリーダーシップの発展にどのように寄与しているかを分析した海外の研究レポートを紹介します。
組織内でコーチングカルチャーを構築するための要素や効果について、6年にわたる研究結果をもとにアップデートされた内容を解説していきますので、最後までご一読ください。
概要まとめ
イントロダクション
グローバル競争の激化・人材不足・働き方改革などの課題を背景に、海外ではコーチングカルチャーを構築する組織が増えています。
コーチングカルチャーを組織内に築くためには、以下が必要です。
- 経営層のコミットメント
- リーダーのロールモデル
- コーチングスキルのトレーニング
- コーチングプログラムの導入
- コーチングの成果測定
- 継続的な改善 など
本研究は、HCI(ヒューマンキャピタル協会)とICF(国際コーチング連盟)が共同でおこない、HR(人事)・L&D(学習・能力開発)・タレントマネジメントの専門家366人を対象としています。
研究内容
- コーチングカルチャーを構成する6つの要素を特定した
- コーチングカルチャーを築くためのポイントを提案
結論
- コーチングカルチャーは、組織の成功にとって不可欠な要素である
- コーチングカルチャーを持つ組織は、リーダシップの強化や組織全体の業績向上に寄与している
- コーチングカルチャーの構築には、予算確保や上層部のサポートが課題
- コーチングの効果を測定し、組織内で効果の提示が求められる
イントロダクション
コーチングカルチャーの定義は定められていませんが、コーチング・リーダーであるピーター・ホーキンスは、著書「Creating a Coaching Culture(コーチングカルチャーの創造)」のなかで下記のように定義づけています。
コーチングカルチャーが組織に存在するのは、リーダー、マネジャー、スタッフが、個人、チーム、組織のパフォーマンスを向上させ、すべての利害関係者のために価値を共有するような方法で、すべての従業員を巻き込み、成長させ、利害関係者を巻き込む方法において、コーチング・アプローチが重要な側面となっているときである。
コーチングカルチャーは、コーチングを実施するだけでなく「組織全体がコーチングの原則に基づいて運営される状態」を意味します。
コーチングの原則とは、主に以下の要素です。
- 傾聴と信頼関係の構築
- 目標設定と行動計画 など
コーチングカルチャーが浸透している組織では、自己成長の意識向上やオープンなコミュニケーションが促進されるので、生産性の向上やチームワークの強化など組織や従業員にポジティブな変化をもたらします。
近年欧米ではコーチングカルチャーが多くの企業で導入されており、その成果が実証されている一方で、日本では広く浸透していないのが現状です。
しかし近年コーチングカルチャーの重要性が認識され始め、導入する企業が増えつつあります。
本レポートを通じて、コーチングカルチャーに関心を持つ経営者・リーダー・人材開発担当者・コーチなど、より効果的な人材育成と組織開発を目指す方に役立つ知見をお届けします。
下記の記事では、企業にコーチングカルチャーを浸透させるステップやポイントについて解説しているのでぜひご覧ください。
コーチングカルチャーとは?5つのメリットや浸透までのステップなど総まとめ
コーチングカルチャーとは、組織内でコーチングが取り入れられ、価値観や態度、行動がコーチングの原則にしたがっている状態です。本記事では、導入メリットや浸透するポイントなどを解説します。
記事掲載日:2024年7月30日
研究内容
調査によると、少なくとも下記の6つの複合基準のうち、5つの基準を満たした組織は、強力なコーチングカルチャーを持つと見なされました。
【強力なコーチングカルチャーの6つの複合基準】
1.従業員はコーチングを重視している
2.経営陣がコーチングを価値あるものとして認識している
3.マネージャーや内部コーチが認定されたコーチ特化のトレーニングを受けている
4.内部コーチ、外部コーチ、コーチングスキルを持つマネージャー・リーダーのすべてを組織で活用している
5.組織の予算にコーチングの専用項目がある
6.全従業員がプロフェッショナルなコーチからコーチングを受ける均等な機会を持っている
調査の結果、参加組織のうちの11%が上記の基準を用いて強力なコーチングカルチャーを持つと判断されています。
【強力なコーチング文化の複合(各基準の存在を示す回答者の割合)】
なお下記の記事では、コーチングが組織文化に与える影響や重要性を解説しているので併せてチェックしてみてください。
コーチングを取り入れた組織文化改革とは?手法や事例を紹介
コーチングを駆使して組織文化を改善する方法を経営者・人事向けに解説。モチベーション向上やコミュニケーション改善に役立つ手法を紹介し、実践を通じて社員と組織の成長を促します。今すぐコーチングで変革を始めましょう。
記事掲載日:2024年7月1日
1.マネージャーやリーダーによるコーチングの拡大
多くの組織では、マネージャーやリーダーがコーチングスキルを活用することでコーチングの手法を拡大しています。
【コーチングを活用する平均頻度】
また83%の組織は、今後5年間でコーチングスキルを持つマネージャーやリーダーの役割を拡大する計画であることがわかりました。
全体の回答者の23%(コーチングカルチャーが強い組織では63%)は、全員がプロのコーチから平等にコーチングを受けられると答えています。
特に大きな組織では社内と社外の両方のコーチを利用し、さまざまなコーチングのスタイルを取り入れていることがわかりました。
内部コーチ・外部コーチがそれぞれの項目に与える影響は下記のとおりです。例えば、外部コーチは従業員が勤務する企業の組織文化に対する事前知識がないため、組織文化の知識に関する棒グラフは弱いという値を示しています。
【内部コーチ・外部コーチが与える影響】
しかし、従業員が5,000人以上の大企業では、平等にコーチングを受けられる人は9%以下になっている一方、従業員数が100人未満の小さな組織では、28%がコーチングを平等に受ける機会を提供しています。
2.投資理由は従業員育成とパフォーマンス管理
多くの組織は「従業員の育成」や「パフォーマンス管理」のためにコーチングを利用しています。
継続的な研究を通して、「コーチングの取り組みが組織の戦略的目標と一致している場合」に最も効果があることがわかりました。
組織がコーチングに投資する理由のTOP3は、リーダーシップ育成(55%)、人材開発(51%)、従業員の目標支援 (49%)です。次いで従業員のエンゲージメント向上(28%)があるものの、上位との差は大きく、組織での優先事項は明確です。
【組織がコーチング活動に投資する理由】
当サイトでは、企業がコーチングに投資する理由No.1であるリーダーシップとコーチングの関係についても複数の記事で解説していますので、関心のある方はご一読ください。
リーダーシップにおけるコーチング力の磨き方:部下を引き立てるための最新戦略とテクニック
部下の潜在能力を引き出すコーチング力は、現代リーダーに不可欠。具体例とデータを元にその心得とテクニックを探ります。
記事掲載日:2023年8月2日
世界のリーダーが実践するコーチングによるキャリアデザイン
コーチングの活用方法とその成果を詳細に解説。IBMやエリクソンの成功例を基に、次世代のリーダー育成法を探る。
記事掲載日:2023年7月6日
3.信頼と信用がコーチ選びの鍵
組織がコーチングを支援する際、コーチングプロブラムマネージャーが取り組むべき内容として、下記のような点が挙げられます。
- どのようなコーチングスタイルにするか
- 組織内でもコーチングスキルを持つ人材を育成するか
また調査によると、回答者はプロフェッショナルなコーチを見つけるために、信頼できる個人(38%)やコンサルティング会社(29%)からの紹介など、独自のネットワークを駆使していることがわかりました。
回答者の組織の26%は、社内で独自のコーチを育成しているとの報告があります。
【プロコーチの選出方法】
なお、社内コーチが増えると組織全体のコーチング能力が向上し、社員一人ひとりが互いに成長を促す文化の構築が可能です。
下記のグラフからは、「過去のコーチング経験や資格・認定」が外部のコーチを選ぶ際の最も重要な要素とされている点がわかります。
【コーチを選ぶ際に重視する点】
4.コーチングを予算に組み込む
コーチングカルチャー構築の計画には、短期と長期のお金の計画が重要です。
強力なコーチングカルチャーを持つ組織のうち83%は、予算内にコーチング専用費用がしっかりと設けられているのに対し、そうでない会社は17%にとどまっています。
また全体の25%の組織がトレーニング予算にコーチング専用の項目を設けており、調査に参加した組織では、トレーニング予算の21%がコーチング活動に使われていることがわかりました。
組織のなかでコーチング予算を確立するには、コーチングの投資対効果を示す必要があります。今回の調査では、回答者の組織の相対的な強みと弱みを評価するために、7つのタレント成果と8つの重要なビジネスパフォーマンス指標のインデックスを開発しました。
これらの評価は、5段階評価の項目で構成されていて、56点以上のスコアを得た組織を「高業績組織」と見なしています。強いコーチングカルチャーを持つ組織の54%が高業績組織に分類されますが、強いコーチングカルチャーがない組織では29%にとどまっているという調査結果があります。
【高業績とコーチングカルチャーを持つ組織の割合】
また統計的に「コーチングカルチャーのある組織」と「そうでない組織」とでは、リーダーの質や優秀な人材の定着率、魅力的な企業ブランドの浸透などの点で大きな違いが見られました。
【コーチングカルチャーが組織・人材に与えた影響】
【コーチングカルチャーがビジネスに与えた影響】
この調査から、コーチングカルチャーの構築と組織の業績が密接に関連している点がわかります。
下記の記事では、コーチングと関係が深い「心理的・社会的・身体的に満たされた状態」であるウェルビーイングが業績に与えるポジティブな影響について解説しているので、併せてチェックしてみてください。
ウェルビーイングと業績向上の関係と従業員のウェルビーイングの高め方
ウェルビーイングの実践が業績向上にどう影響するかを解説。経営者・人事担当者必見の具体的な方法と成功事例を紹介。幸福な職場環境の構築で成果を実現しましょう。
記事掲載日:2024年5月11日
5.コーチングスキルの継続的な開発
強力なコーチングカルチャーを持つ組織は、内部コーチやコーチングスキルを持つマネージャーやリーダーが、より多くのトレーニング時間を取得できるようにしています。
社内コーチの実践者は、上位から他の社内コーチ(62%)・学習と開発部門(L&D)(61%)・人事部門(53%)です。
48%の企業は、専門のコーチング組織によって認定または承認されたプログラムで、20%の企業は認定または承認された大学ベースのプログラムで社内コーチの実践者を育成しています。(2018年の17%から増加)
つまり、強力なコーチングカルチャーを持つ組織の多くは、専門トレーニングを受けた社内コーチ実践者を活用していることがわかります。
専門組織によって認定されたプログラムの実践やトレーニングは、組織内のコーチングの質の効果を高めるために重要です。
次のグラフは、「コーチを専門」としている人がトレーニングに当てた平均時間になります。
【コーチを専門とする人がトレーニングに当てた時間】
次に、「組織のリーダーやマネージャー」がコーチトレーニングにかけた平均時間は下記のグラフのとおりです。
【組織のリーダーやマネージャートレーニングに当てた時間】
さらに継続的なコーチングスキル向上のために必要なものは、コーチ専門のトレーニング(71%)、コーチングをおこなう人たちのコミュニティ(54%)、メンターによるコーチング(51%)、コーチングの資格や証明書を取るための支援(49%)との調査結果になりました。
【継続的なコーチングスキル向上のために必要なもの】
また、特に需要が高い支援内容は下記の3つです。
1.コーチングの指導やトレーニング(70%)
2.社内コーチのための継続的な練習や管理
3.コーチング活動のための標準的な形式や手順
【コーチングカルチャー構築で必要とする支援】
コーチングカルチャーの浸透には多方面からのサポートが求められます。
当サイトが大切にしているのは、定期的なコーチングセッションの実施はもちろん、成功事例の共有やフィードバックの促進などです。コーチングを日常の業務プロセスに組み込むことで社員が自然とコーチングの考え方を身につけて、相互に支援し合う環境づくりを推奨しています。
6.コーチング効果の測定が課題
コーチングカルチャーを構築するうえで障壁となるのが「予算の確保」と「上層部のサポート」です。
これらの課題の対策として、「コーチングがどれくらい成果につながっているか」を示す必要があります。
しかし、多くの組織はコーチングの評価方法やツールを組み込んでおらず、回答者の38%が「コーチングの効果を測定できない点が、コーチングカルチャーを築く障壁になっている」と報告しています。
【コーチングカルチャーの構築に障壁となっているもの】
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「優秀な人材の確保と維持」が重要である現代において、強力なコーチングカルチャーの構築は非常に価値があります。
ただし、コーチングの価値の理解は始まりに過ぎず、継続的な努力と発展が必要です。またコーチングを組織戦略に組み込むことで、組織内でのコーチングの専門性を高め、リーダーやマネジャーのスキルアップに注力すべきだと考えます。
最終的にコーチングの効果を最大化するためには、十分な予算と上層部の支援が欠かせません。そのためにも、組織内におけるコーチング効果の明確な提示が求められます。
当サイトでは、コーチングの可視化ツールの選び方や活用方法を解説している記事を公開していますので、下記からご覧ください。
コーチ必見!コーチングの可視化で成果を倍増させる方法
コーチングの成果を高める可視化手法を徹底解説。指導者必見の具体的な方法とツールを紹介し、クライアントの目標達成をサポートします。実践的なアプローチで自己実現を促進。今すぐ可視化を始めましょう。
記事掲載日:2024年7月1日
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コーチングを可視化すると、客観性のある効果的な支援につながります。本記事では、コーチングを可視化するメリットや可視化できるツールの紹介・効果的な活用手法などを解説します。
記事掲載日:2024年7月30日
本調査報告書について
調査報告書は、HCI(ヒューマンキャピタル協会)とICF(国際コーチ連盟)が合同で作成したものです。
2019年の5月20日から7月8日までの間に、HCIの調査パネルとL&Dコミュニティに登録しているHCI会員や、ICFのメーリングリストに登録されているプロのコーチや人事・L&D関係者に、メールでアンケートが送られました。HCIとICFは、それぞれのソーシャルメディアでも調査への参加を呼びかけています。
アンケートには重複して答えた人や、適切な専門知識を持たない人は除かれ、最終的に366の回答が分析されました。
ICF(国際コーチ連盟)について
ICF(国際コーチ連盟)は、1995年に設立された非営利組織で、世界中のコーチング専門家のスキル向上と認定を支援しています。
ICFは、コーチがクライアントの人生・人間関係・ビジネスパフォーマンスを向上させるための高い基準と独立した認定を提供しており、コーチングの専門性の向上を目的としている組織です。
コーチ専用のトレーニングプログラムも認定し、厳格な審査を通じてプログラムがICFのコーチングの定義・倫理綱領・コアコンピテンシーに合致していることを確認しています。
ICF認定資格を持つコーチは、その誠実さ・スキルの理解・クライアントへの献身が保証されているともいえます。
参考文献
「Building Strong Coaching Cultures for the Future」
著者:Jenna Filipkowski, PhD、Abby Heverin、Mark Ruth
発表年:2019年11月12日
https://www.hci.org/system/files/2019-10/2019%20ICF_0.pdf
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クライアントの状態を定量的に測れるため、コーチング前後での変化がわかりやすく、組織内にコーチングカルチャーを構築する「施策の妥当性」についての資料としても活用していただけます。現状把握や効果の検証に活用したい方は、下記のボタンから気軽にお試しください。
記事監修
代表取締役社長 小泉 領雄南
2011年にGMOペイメントゲートウェイ入社。2016年にGMOフィナンシャルゲート執行役員に就任し、2020年に上場。2021年、早稲田MBA在学中にコーチングに出会い、翌年メタメンター設立。2023年に国際コーチング連盟日本支部運営委員に就任。