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📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Solmsら(2022年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。
コーチングのセッションで、あなたはどんな質問を使っていますか?
「今、どんな問題を抱えていますか?それはいつから始まりましたか?」と問題の根っこを掘り下げるスタイルの人もいれば、「もし問題が消えたとしたら、明日はどんな一日になりますか?」と解決後の理想像を描かせるスタイルの人もいるでしょう。
コーチングの現場では、この「どちらの問いかけが効果的か」という議論が長年続いています。
問題を深く掘り下げることで気づきを促す「問題志向(プロブレム・フォーカスト)」のアプローチと、解決策や過去の成功体験に目を向けさせる「解決志向(ソリューション・フォーカスト)」のアプローチは、理論的背景も実践スタイルも大きく異なります。
解決志向コーチングはポジティブ心理学の流れを汲み、クライアントの強みや可能性に焦点を当てることを重視します。
一方、問題志向コーチングは精神療法の伝統を受け継ぎ、問題の原因や経緯を丁寧に掘り下げることで変容を促そうとします。
どちらのアプローチにも豊富な実践実績がありますが、「具体的にどちらの質問がどんな効果をもたらすのか」を科学的に比較した研究は、これまでそれほど多くありませんでした。
また、既存の実験研究の多くは大学生を対象としており、実際にコーチングを受けることの多い「働く人」を対象とした研究が少なかったという課題もありました。
そこでオランダの研究チーム(Solmsら、2022年)は、医療従事者を対象とした実験を通じて、3種類のコーチング質問技法の効果を厳密に比較しました。
「コーチングの問い」そのものが持つ力を科学的に解明しようとした、意欲的な研究です。
どんな実験だったのか? 3種類の質問を使ったセルフコーチング演習
この研究では、オランダ国内の複数の医療機関に勤める研修医と医学系博士課程の学生、合計183名が参加しました。
参加者は全員、自分が抱える仕事上の悩みを一つ選び、オンラインで「セルフコーチング・ライティング演習」に取り組みました。
実際のコーチとのセッションではなく、「書く」形式を採用したのには明確な理由があります。
リアルなコーチングでは、コーチの個性や話し方、クライアントとの相性など、質問の内容以外の要素が結果に大きく影響します。
こうした余分な要素を取り除き、「質問の種類だけ」の効果を純粋に測定するために、あえて対人要素を排除した自己記入型の演習が採用されました。
参加者はランダムに3つのグループに分けられ、それぞれ異なる質問に沿って自分の問題を振り返りました。
問題志向グループは、「その問題が特にひどかった日のことを思い出してください。そのとき何が起きていましたか?どう感じ、どう行動しましたか?」という問いに答えました。
問題がどのように表れているかを詳細に記述することを求めるスタイルです。
解決志向(ミラクル)グループは、「もし昨晩のうちに問題が魔法のように消えていたとしたら、翌朝あなたは何に気づくでしょうか?」という「奇跡の質問(ミラクル・クエスチョン)」に答えました。
問題が存在しない理想の状態を想像させる技法です。
解決志向(サクセス)グループは、「過去に同じような問題を乗り越えた場面を思い出してください。そのときうまくいった理由は何でしたか?」という「成功の質問(サクセス・クエスチョン)」に答えました。
過去の成功体験からリソースを引き出す技法です。
演習の直後(T1)、14日後(T2)、さらにその10日後(T3)の3時点で、感情・自己効力感・目標志向性・行動などを測定しました。
T3では、参加者に仕事関連のストレス対処情報を提供するウェブサイトへのリンクを送付し、実際にアクセスしたかどうかを「行動指標」として記録するという工夫も取られています。
感情とやる気への影響:解決志向が明確に優位
まず、演習直後の感情状態の変化についてです。
解決志向の質問(ミラクル・サクセスの両グループ)に取り組んだ参加者は、問題志向グループと比べて、演習後にポジティブな感情(満足感・活力感)が高くなったことがデータで確認されました。
逆に、緊張感や不安といったネガティブな感情は有意に低くなりました。
この差は統計的にも確認されており、効果の大きさも無視できないレベルでした。
また、目標に向かって積極的に取り組もうとする「接近目標志向」、つまり「なんとかこの問題を解決したい」という前向きな動機づけについても、解決志向グループのほうが高い結果となりました。
これらの結果は研究チームの仮説通りであり、解決志向の質問が感情的な状態と積極的な動機づけを高める効果を持つことが、働く大人のサンプルでも確認されました。
一方で注目すべきは、「問題が悪化しないようにしたい」という防衛的な動機づけ(回避目標志向)については、3グループ間で差が見られなかったことです。
解決志向の質問は「前向きな動機」を高めますが、「防衛的な動機」を下げるわけではないことが示されました。
驚きの結果:自己効力感・行動計画・目標達成度に差はなかった
研究チームが事前に予測していたいくつかの仮説は、実際には支持されませんでした。
これが本研究の最も注目すべき発見のひとつです。
まず、自己効力感(「自分ならできる」という感覚)については、3グループ間でデータ上の差が見られませんでした。
特に、過去の成功体験を想起するサクセス・クエスチョンは理論的に「最も効果的なはず」と期待されていましたが、その効果はミラクル・クエスチョンや問題志向の質問と変わりませんでした。
研究チームはこの予想外の結果について、2つの説明を挙げています。
ひとつは、参加者が想起した成功体験が、現在の問題解決に必要なスキルと必ずしも一致していなかった可能性です。
もうひとつは、医療従事者が直面する問題は組織構造や人間関係など自分の力だけでは変えにくい要素を含むことが多く、それが自己効力感の向上を妨げた可能性です。
次に、行動計画(アクションプラン)の数と質についても、グループ間で差はありませんでした。
解決志向グループが問題志向グループよりも多くの行動計画を立案するという予測は支持されませんでした。
そして目標達成感(問題の解決に近づいた感覚)については、演習前後で全グループが向上したことはデータで確認されましたが、グループ間の差は見られませんでした。
つまり、問題志向であっても解決志向であっても、「自分の問題について真剣に向き合うこと」自体が目標達成感の向上につながることが示されました。
14日後・24日後の追跡調査でも、行動への影響に差はなかった
演習から14日後のフォローアップ調査(T2)では、「立てた行動ステップをどの程度実行したか」「現時点での目標達成感はどうか」を3グループで比較しました。
結果として、いずれの指標でもグループ間に差は見られませんでした。
さらに、T2の10日後(演習から約24日後)に実施されたウェブサイトのアクセス記録(T3)でも同様でした。
解決志向グループが問題志向グループよりもウェブサイトを多く訪問するという予測は支持されず、3グループのアクセス率はほぼ同等でした(問題志向:48%、ミラクル:57%、サクセス:59%)。
この結果は、解決志向の質問が「感情とやる気」には有効であっても、「実際の行動変容」に直結するわけではないことを示唆しています。
研究チームは、問題志向の質問も「問題への気づきを深めることで行動を促す効果がある」と述べています。
変容の理論に基づけば、問題への直面化は行動変容の「準備段階」として重要な役割を果たすと説明されています。
また、解決志向の質問は前向きな思考を促す一方で、現実に根ざした具体的な行動計画の立案を妨げる側面もある可能性を研究チームは指摘しています。
この研究が示すコーチングへの示唆とまとめ
本研究の結果から、研究チームはコーチングの科学と実践に対していくつかの重要な示唆を述べています。
まず、解決志向の質問は、クライアントが複雑な問題に行き詰まり、ネガティブな感情に支配されているような場面で特に有効である可能性があります。
感情状態を整え、前向きな動機を引き出す力は、解決志向の質問が持つ明確な強みです。
しかし、「気分が良くなること」は「実際に行動が変わること」と必ずしも結びつくわけではありません。
研究チームは、ポジティブな感情は「あると良いもの」であっても、「なくてはならないもの」ではない可能性を指摘しています。
また、問題志向の質問も、クライアントが自分の問題を言語化し深く理解したいと思っている段階では重要な役割を果たします。
問題を直視することは不快感を伴うことがありますが、それは変容の出発点として機能しうると研究チームは述べています。
クライアントが問題について話したいと感じているとき、コーチが解決策の話題に無理に切り替えることは逆効果になる可能性があるとも指摘しています。
研究チームは、実際のコーチングが解決志向と問題志向の組み合わせであることを改めて強調しています。
どちらか一方を絶対視するのではなく、コーチングプロセスのどの段階にクライアントがいるかを見極めながら、適切な質問を使い分けることが重要だと述べています。
研究の限界としては、今回の実験が実際のコーチングセッションではなく一回限りのセルフコーチング演習であった点が挙げられています。
コーチとの関係性、複数回のセッション、問題の種類や深刻度などがコーチング効果に与える影響は、今後のさらなる研究で明らかにされる必要があります。
また今回の参加者である医療従事者は、一般的なビジネスパーソンとは問題の種類や深刻度が異なる可能性があり、他の職種への一般化には注意が必要と研究チームは述べています。
研究チームは、今後の研究の方向性として、コーチングプロセスの時間的な流れの中で、どの質問がどの段階で最も効果的かを検証する縦断的な研究が求められると述べています。
また、セルフコーチングという形式でも目標達成感の向上が確認されたことから、経済的なコストをかけずにコーチングの恩恵を受けられる方法の探索も今後の課題として挙げられています。
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Solms, L., Koen, J., van Vianen, A. E. M., Theeboom, T., Beersma, B., de Pagter, A. P. J., & de Hoog, M. (2022). Simply effective? The differential effects of solution-focused and problem-focused coaching questions in a self-coaching writing exercise. Frontiers in Psychology, 13, 895439. DOI: 10.3389/fpsyg.2022.895439
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WELLBEING MAGAZINE編集部
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