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コーチングの心理学:なぜそれが機能するのか?

アカデミア

記事掲載日:2023年5月31日 
最終更新日:2024年5月9日

コーチングは、個人や団体が自己認識を深め、目標を達成するための道筋を見つけることを支援するプロセスです。しかし、このプロセスがどうして機能するのか、心理学的視点から探るとさらに面白い事実が明らかになります。本記事では、コーチングの心理学について深く掘り下げ、その効果性の理由を探ります。

自己認識とコーチング

自己認識とは、自分自身の感情、行動、価値観、目標、そしてその他の自己に関連する特性を理解する能力を指します。高い自己認識を持つ人は、自分自身の行動や思考が自分自身や他人にどのような影響を及ぼすかを理解しやすいです。

自己認識の重要性

自己認識はコーチングの中心的な要素であり、これによりクライアントは自己の強みと弱みを理解し、それらをどのように利用または改善するかを見つけ出すことができます。実際に、自己認識は幸福、自己効力感、およびパフォーマンスの向上に直接関連しています(Silvia & O’Brien, 2004)。

引用論文:Self-Awareness and Constructive Functioning: Revisiting ?the Human Dilemma?

自己認識の増進

コーチングは、個々のクライアントが自己認識を深めるための支援を提供します。コーチはクライアントに問いを投げかけ、反省や内省のプロセスを促進し、新たな視点や洞察を開く手助けをします。

このプロセスは「共感的理解」の概念に根ざしています。この概念は、カール・ロジャースのクライアント中心療法で初めて提唱され、クライアントの経験を理解し、それを反映することによって、クライアントが自己認識を深める助けとなるという考え方です(Rogers, 1951)。

引用論文: Client-Centered Therapy: Its Current Practice, Implications, and Theory.

自己効力感とコーチング

自己効力感とは、自分が特定の任務を達成する能力を持っているという信念を指します。アルバート・バンデュラは自己効力感が行動、思考パターン、および感情に大きな影響を及ぼすと提唱しました(Bandura, 1977)。

自己効力感の重要性

自己効力感は、目標達成、困難への対処、そしてパフォーマンスの向上に対して重要な役割を果たします。自己効力感が高い人は、困難に直面しても挫折せず、持続力を発揮し、成功する可能性が高いです(Bandura, 1977)。

引用論文: Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change.

自己効力感の強化

コーチングは自己効力感の強化に大いに貢献します。コーチはクライアントに自己効力感を高めるための具体的な戦略を提供します。これらは過去の成功体験の思い出、他人からの肯定的なフィードバック、または適切なストレス管理技術などを含むことがあります(Bandura, 1986)。

引用論文: Social foundations of thought and action: A social cognitive theory.

具体的な事例:テスラとイーロン・マスク

イーロン・マスクは、自己認識と自己効力感が結果を生み出す能力を見事に示したエグゼクティブの一人です。彼のリーダーシップスタイルは、自己認識の深さと自己効力感の高さによって特徴付けられています。

自己認識とイーロン・マスク

マスクは自己認識の重要性を理解しています。彼は自身の強みと弱みを公然と認識し、それらを有効に利用する方法を見つけています。例えば、彼は自身がディテールに対する異常な集中力を持つことを認識しています。これにより、彼はテスラの製品に関して最小の詳細までこだわり、業界をリードする革新的な製品を生み出すことができています。

自己効力感とイーロン・マスク

そしてマスクは自己効力感が非常に高いです。彼は自分自身が目標を達成する能力を持っているという強い信念を持っています。スペースXでの彼の仕事はこの点を明確に示しています。多くの人々が不可能と考えていた宇宙旅行の民間化に関する彼の目標は、彼の自己効力感の高さを反映しています。彼のこの信念は、スペースXが歴史的な成果を達成する原動力となっています。

これらの要素は、イーロン・マスクがテスラとスペースXを成功に導くための鍵となっています。彼の自己認識と自己効力感は、彼のリーダーシップの効果性を高め、組織全体に影響を及ぼしています。

コーチングの心理学的効果に関する研究

コーチングの心理学的効果をより詳細に理解するためには、科学的な証拠に基づく研究が不可欠です。以下に挙げる二つの研究は、コーチングが人々の思考、感情、行動にどのような影響を及ぼすかを示しています。

「コーチングは有効か?組織的文脈における個人レベルの成果に対するコーチングの効果に関するメタアナリシス」 –  Sonesh et al. (2015)

この研究では、コーチングの効果についてのメタ分析が行われています。具体的には、コーチングが組織のコンテキストでの個々の結果にどのように影響するかについて調査されています。論文では、コーチングが自己評価、パフォーマンス、スキル、幸福感、ストレス軽減など、様々な指標において積極的な影響を及ぼすことが示されています。

この研究からは、コーチングが心理的な視点からの人間のパフォーマンスを向上させるための有効な手段であることが示唆されています。
出典:Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context

「職場におけるコーチングの有効性:現代の心理学的情報に基づくコーチングアプローチのメタ分析」 – Qing Wang et al.(2022)

さまざまな職場の成果に関して、認知行動学とポジティブ心理学の枠組みで、これまでの実証的なコーチング研究を統合した分析をしています。
結果としては、心理学的情報に基づくコーチング・アプローチは、特に目標達成(g= 1.29)と自己効力感(g= 0.59)に関する効果的な仕事上の成果を促進することを確認した。
また、これらのコーチングフレームワークは、コーチングの自己申告によるパフォーマンスよりも、他者から評価される客観的なワークパフォーマンス(例:360フィードバック)に大きな影響を与えることが確認された。
さらに、認知行動指向のコーチングプロセスは、個人の内的自己調整と気づきを刺激し、仕事への満足度を高め、持続可能な変化を促進した。
しかし、一般的によく使われるコーチングアプローチとの間には、統計的に有意な差は見られなかった。むしろ、異なるフレームワークを組み合わせた統合的なコーチングアプローチの方が、コーチャーの心理的幸福を含むより良い結果を促進した(g= 0.71)。

出典:The effectiveness of workplace coaching: a meta-analysis of contemporary psychologically informed coaching approaches

結論:コーチングの心理学とその効果

コーチングは、個々の成長を促進し、組織の成功を向上させる強力なツールであり、その効果は心理学的な証拠によって強く裏付けられています。コーチングが自己認識、自己効力感、ストレスの軽減、そしてパフォーマンスの向上にどのように貢献するかを理解することは、コーチングプロセスを最大限に活用するために不可欠です。

最後に、自己認識、自己効力感、成長マインドセットの強化は、個々のパフォーマンスだけでなく、組織全体のパフォーマンスをも向上させることができます。これはマイクロソフトの事例が明確に示しています。組織が全体的な成長マインドセットを採用し、全員が学習と成長に向けた努力を続ける環境を作ることで、組織は非常に成功することができます。

また、個々のコーチングセッションがどのように進行するかについて理解することは、個々の成功だけでなく、組織全体の成功にも寄与するということを理解することが重要です。ここで重要なことは、コーチングは一方向の教育プロセスではなく、コーチとクライアントが共同で成長と学習を促進するパートナーシップであるということです。

さて、あなたがコーチであれば、これらの心理学的な原則をどのように活用できるかを考えてみてください。自己認識、自己効力感、成長マインドセットの促進を通じて、あなたのコーチングプラクティスはどのように進化できるでしょうか?あなたがリーダーや組織のメンバーであれば、これらの原則をどのように活用して自分自身と組織全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょうか?

最終的に、コーチングの心理学は、個々の人間の成長と組織の成功を同時に促進する方法を提供します。この記事があなたのコーチングの旅を強化し、あなたの組織がより効果的で対話的なコーチングカルチャーを作るための手助けになれば幸いです。