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人的資本経営が今、企業成長のカギを握る重要なテーマとして注目を集めています。
人的資本経営を推進するなかで、「他社の成功事例を参考にしたい」「人材投資をしたいが失敗は避けたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
働き方改革やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の台頭により、企業は人材を「コスト」ではなく「戦略的な資源」としてとらえることが必要となっています。取り組みを怠れば、優秀な人材の流出による組織力の低下や、投資家による企業価値の評価が得られないといったリスクを招くおそれもあります。
そこで、この記事では人的資本経営の基本から、大手・中小企業の成功事例、導入のステップまでをわかりやすく紹介します。記事の後半では、情報開示を可視化するツールについても紹介しますので、本記事が人的資本経営のお役に立てれば幸いです。
企業が人的資本経営を成功させるためには、従業員のエンゲージメント向上が不可欠です。これらは、持続的な企業価値向上への貢献につながる重要な要素となります。
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人的資本経営とは人材投資で企業価値を高める経営
経済産業省では、人的資本経営を以下のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」ととらえ、その価値を最大限に引き出して中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。
引用:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
人的資本への投資は、研修・教育の実施や、採用活動、労働環境の改善などにより、短期的に資本の減少をともなうことがあります。
しかし、中長期的にみると、これらの投資が従業員のエンゲージメントを高め、離職率の低下にもつながります。
岩澤誠一郎氏の研究によれば、エンゲージメントの高い企業ほど従業員のパフォーマンスが高く、持続的な成長が期待されることが示されています。
参考:日本企業における従業員のワーク・エンゲイジメントとマネジメントスキル|岩澤誠一郎(名古屋商科大学)
このように、人的資本経営の成功には中長期的な視点での投資と、従業員エンゲージメントの向上が欠かせません。
従業員エンゲージメントを高める方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。
従業員エンゲージメントとは?向上施策や導入事例・測定方法を解説
従業員エンゲージメントとは、従業員が持つ貢献意欲や愛着のことです。本記事では、従業員エンゲージメントの概要や向上施策、導入事例や測定方法まで詳しく解説します。
記事掲載日:2024年9月25日
人的資本経営が注目を集める3つの背景
人的資本経営が注目される背景には、以下の3つが挙げられます。
- 企業情報開示義務の改正
- ESG投資の浸透
- 働き方の多様化
2023年の法改正により、大手企業は「人的資本可視化指針」に基づき、人的資本情報の開示が義務化されました。これにより投資家やステークホルダーは、開示情報を通じて企業の持続可能性や成長力を判断するようになりました。
一方で、中小企業には人的資本情報の開示義務はありませんが、経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を得るために、情報開示は効果的です。
また、ESG投資の拡大により財務指標だけでなく、人的資本を含む「社会」要素が企業評価の重要な基準となりました。例えば、ブラックロック・ジャパンの運用ファンドでは人的資本の質と量が評価項目に取り入れられ、投資判断において人的資本経営の重要性が増しています。
働き方の多様化も、人的資本経営が注目される要因です。リモートワークやフレックスタイム制など多様な働き方の導入により、優秀な人材の確保や多様性の促進が期待できます。
これらの背景から人的資本経営は、法的対応、投資基準、多様な働き方への対応を統合した経営戦略として注目されています。
人的資本経営を支える5つのポイントと実践事例
人的資本経営を成功させるためには、以下の5つの要素に基づいた取り組みが不可欠です。
事例を用いて順番に紹介していきます。
ポイント1.動的な人材ポートフォリオの構築
動的な人材ポートフォリオは、企業の成長と将来的な可能性を高める重要な要素です。
市場や経営環境の変化に即応するため、企業は必要なスキルや人材を把握し、適材適所へ人員を配置する体制を整えましょう。
キリンホールディングス株式会社の事例では、ヘルスサイエンス事業に参入するために、飲料事業で培った技術に加え、専門知識を持つ人材採用を推進しました。その結果、キャリア採用者の割合が2017年度の約16%から、2020年度には約40%に増加したと報告されています。
参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集|経済産業省
このように、動的な人材ポートフォリオを構築することは、変化する市場や経営環境に対応できる企業価値を創造するために必要不可欠です。
ポイント2.多様性と包摂性の推進
多様性と包摂性(D&I)の推進は、企業の競争力を高めるだけでなく、社会的責任の遂行にもつながる重要な取り組みです。
多様な考え方や異なる視点を持つ人材の活躍は、イノベーションの原動力にもなります。
株式会社LIXILの事例では、ジェンダー平等や多様な背景を持つ従業員が活躍できる環境をトップダウンで推進し、具体的なKPIを示すことで、D&Iを戦略的に推進しています。
参考:多様性の尊重|LIXIL
このような株式会社LIXILの取り組みは、人的資本経営と社会的責任の両立を可能にしました。D&Iの推進は企業の成長を支え、豊かな社会の実現にも貢献しています。
ポイント3.リスキリングの促進
リスキリングとは、職場で必要とされるスキルの変化に対応するために、新たな知識や技術を習得することを指します。
リスキリングの促進で得られるメリットは、変化する市場ニーズに対応できる人材を育成し、組織全体のスキルを強化できることです。
例えば、LINEヤフー株式会社の事例では、社員が個々の課題や目標に合わせて学べる「GLOBIS学び放題」を導入し、企業内大学を設置するなど、従業員のスキルアップを推進しています。
リスキリングの促進は、長期的な競争優位性の確保や、従業員のキャリア形成支援にもつながります。
ポイント4.エンゲージメントの向上
従業員が意欲を持ち、愛着を感じられる職場環境を整備することは、従業員定着率やエンゲージメント向上にも寄与します。
エンゲージメントと生産性には正の相関関係があり、ワークエンゲージメントスコアが1単位増加すると労働生産性が約1〜2%向上すると報告されています。
出典:第2-(3)-12図 ワーク・エンゲイジメントと企業の労働生産性について|厚生労働省
ソニーグループ株式会社の事例では、社内募集や社内企業支援を通じて従業員の成長を支援し、企業への信頼性を高めた結果、エンゲージメント指数は88%と非常に高い水準を記録しました。
参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集|経済産業省
このように、ソニーグループ株式会社のおこなう従業員のエンゲージメントを高める取り組みは、企業の持続的な成長に欠かせない要素となっています。
ポイント5.柔軟な働き方の推進
リモートワークやフレックスタイム制の導入は、柔軟な働き方を促進し、従業員のパフォーマンス向上につながります。
サントリーホールディングス株式会社の事例では、フレックスタイム制のコアタイム廃止やテレワーク対象者の拡大を通じて、従業員がより柔軟に働ける環境を実現しました。
参考:一人ひとりがイキイキと働ける環境づくり|サントリーホールディングス株式会社
このように、ワークライフバランスを重視し、現場や社員のニーズに応じた支援をおこなうことで、従業員の潜在能力を引き出し、組織の成長と競争力を高めています。
人的資本経営の実践事例5選
人的資本経営は大企業に限らず、中小企業でも積極的に導入されています。
本項では、大企業と中小企業それぞれの事例を取り上げ、人的資本経営の重要性と具体的な取り組みについて紹介します。
【大企業】
【中小企業】
事例1.塩野義製薬株式会社
出典:塩野義製薬株式会社
塩野義製薬株式会社は、D&I AWARD「ベストワークプレイス」の認定や、新・ダイバーシティ経営企業100選に選出され、人的資本経営を推進する企業として評価されている会社です。
医療用医薬品を中心とする創薬型製薬企業から、ヘルスケアの課題解決にも着目したHaaS企業への参入も進めています。
その具現化を進めるために、塩野義製薬株式会社がおこなった動的な人材ポートフォリオの構築は、以下のとおりです。
【塩野義製薬株式会社・人材ポートフォリオ構築の取り組み】
新人事制度の改革 |
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スキルレベルの可視化と人材確保 |
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教育プログラムの充実 |
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今後は、マルチステークホルダーとの連携を強化し、従業員一人ひとりの価値を高めることで、さらなる企業価値の向上を目指しています。
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事例2.花王株式会社
出典:花王株式会社
花王株式会社は、2023年に「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針」を策定し、社員一人ひとりが互いを受け止め共生する、多様性が強みとなる組織を目指しています。
花王株式会社がおこなう、多様性と包摂性の推進の事例は下記のとおりです。
【花王株式会社・多様性と包摂性推進の取り組み】
公平な機会の提供と多様性の推進 |
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ビジネスパートナーや社会に対するDE&Iの促進 |
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参考:ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針
参考:花王、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針」を策定
多様な人々の個性や価値観を活かし、期待を超える価値を提供して、より豊かな生活を実現する企業を目指しています。
事例3.株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、従業員が自走しながら成果が出せる環境や仕組みを構築し、変化の激しい事業環境のなかでも成長を続ける組織文化を確立しています。
株式会社サイバーエージェントがおこなう、リスキリングの促進事例は下記のとおりです。
【株式会社サイバーエージェント・リスキリング促進の取り組み】
事業拡大に合わせたリスキリングの推進 |
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全社員に向けたリスキリングの促進 |
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経験と失敗から学び、それを次に生かすことで、人材の成長を促し、持続的な企業成長を目指しています。
事例4.株式会社 島田電機製作所
出典:株式会社 島田電機製作所
株式会社島田電機製作所は、社員が誇りを持てる企業文化を醸成し、社員満足度を向上させることで、自然に顧客の信頼を得る仕組みを構築しています。
株式会社島田電機製作所がおこなうエンゲージメント向上につながる事例は、以下のとおりです。
【株式会社 島田電機製作所・エンゲージメント向上の取り組み】
経営者の価値観やビジョンの共有 |
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社員の個性を尊重する仕組みの構築 |
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コミュニケーションの活性化 |
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スキルアップの支援 |
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ゲーム性を取り入れるなど、ユニークな組織風土づくりを進めることで、従業員エンゲージメントの向上に貢献しています。
事例5.マツ六株式会社
出典:マツ六株式会社
マツ六株式会社では、社員がのびのびと働ける環境づくりを通して社会に貢献できる会社作りを目指し、社員定着率は97.7%を達成しました。
マツ六株式会社の柔軟な働き方の推進事例は、以下のとおりです。
【マツ六株式会社・柔軟な働き方推進の取り組み】
家庭と仕事の両立支援 |
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バックアップ手当の新設 |
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特別休暇の新設 |
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社員のウェルビーイングを重視し、いきいきと働ける環境を整えることで、持続可能な社会に貢献する企業を目指しています。
人的資本経営の3つの視点
人的資本経営の目的は、経営戦略と人材戦略を効果的に連携させることで、企業の成長と競争力の強化を目指すものです。
人材版伊藤レポートでは、企業が人的資本経営を実践するなかで、重要な3つの視点を提示しています。
1.経営戦略と人材戦略の連動
2.目標と現在のギャップを定量把握
3.企業文化への定着
人的資本経営を成功させるには、会社のビジネスモデルや経営戦略に適した人材を見極め、採用・育成・配置を計画的におこなうことが重要です。
【具体的な施策】
必要なスキルや経験を持つ人材をターゲットにした採用計画を立案 など
営戦略と人材戦略が連動しているかを把握するためには、現状と目標(KPI)のギャップを定量把握することが大切です。ギャップを可視化し、計画や施策の見直しに活かしましょう。
【具体例】
継続的なモニタリングで設定したKPIに近づいているかを評価し、戦略を調整
人的資本に関する取り組みを単なる制度や施策にとどまらず、組織全体で共有される価値観や文化として定着させることで、企業全体の競争力を強化する基盤となります。
【具体例】
経営層が人的資本の重要性を強調し、その価値を具体的な言葉や行動で示す。
人的資本経営を運営するうえで、これら3つをしっかりと実践していきましょう。
人的資本経営の導入3ステップ
人的資本経営を導入するために必要なのは、以下の3ステップです。
- 適切なKPIの設定
- 課題の可視化
- PDCAの実践により効果測定
まずは、企業の人的資本経営の課題に合わせた適切なKPIを設定することが重要です。
人的資本可視化指針を参考に以下の指標を設定することで、進捗状況をより明確に把握することができます。
【人的資本経営のKPIの一例】
カテゴリ | KPIの内容 |
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人材育成関連 | 研修期間、研修費用、リーダーシップの育成 |
企業の流動性関連 | 離職率、定着率、新規雇用の総数・比率 |
ダイバーシティ関連 | 属性別の従業員・経営層の比率、男女間の給与の差
正社員・非正規社員などの福利厚生の差 |
KPIを設定した後は、現状の課題をデータで可視化することが重要です。
評価が難しい従業員のウェルビーイング指数などの定性的な要素は、ツールを活用することで数値化・可視化が可能です。これにより、自社の状態を的確に把握できるだけでなく、他社との比較や具体的な改善施策の検討がスムーズに進められるようになります。
自社の状況や他社との比較が明確にできるようになったら、PDCAサイクルを回し、実践しましょう。計画を立て、実行、結果を評価し、改善するプロセスを繰り返すことで、施策の方向性を調整し、より実行可能な形に具体化できます。
ウェルビーイングの可視化に活用できるのが、メタメンターのウェルビーイング診断です。
ウェルビーイング診断は、従業員の幸福度を身体的・心理的・社会的の観点から多角的に診断することができます。5分程度でチェックできますので、お気軽にお試しください。
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ウェルビーイング診断はこちら人的資本経営を実現するための開示ポイント
人的資本経営に関連するデータを明確に開示することは、信頼性の向上に欠かせません。透明性のあるデータ公開を通じて、ステークホルダーが企業の取り組みを客観的に評価しやすくなります。
また、単に数値やデータを示すだけではなく、その背景や施策の成果をストーリー性を持たせて伝えることが重要です。これにより、投資家やステークホルダーに対する説得力が高まり、企業の価値観や方向性を深く理解してもらえるようになります。
以下の表では、金融庁が公開した有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の開示例に沿って、人的資本経営が評価される具体的な開示ポイントを整理しています。
【評価される開示ポイント】
経営戦略と人材戦略の連動性 |
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コンプライアンスと戦略的要素 |
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実績値とビジネスモデルの関連 |
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独自の取り組みと モニタリング指標 |
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KPI設定と定量的開示 |
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財務・非財務目標の統合 |
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人的資本と価値創造 |
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人的資本への投資 |
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ギャップ分析(As is と To be) |
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従業員データと比較可能性 |
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参考:有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の開示例 3.「人的資本、多様性等」の開示例|金融庁
また開示事項を検討するときに必ず触れたいのが、健康や安全面です。健康や安全に関する取り組みの開示は、従業員を大切にする企業姿勢を示し、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。また、ESG投資で重視される社会性評価は、企業の資本市場での競争力を高める助けにもなります。
ここからは、「健康・安全」にあたるウェルビーイングを可視化するツールを紹介します。
人的資本経営のデータはツールで可視化が最適解
人的資本経営にはデータの可視化が欠かせません。
エンゲージメントや、心理的、社会的、身体的に満たされた状態かを表すウェルビーイングのような定性的要素は、ツールを活用し数値化することで、定量的に評価することが可能です。
メタメンターのウェルビーイング診断を使用すると、従業員の心理的・身体的・社会的な側面が数値化されるため、人的資本経営のデータベースとして活用できます。
【ウェルビーイング診断・診断画面の例】
メタメンターのウェルビーイング診断は、行動分析学、臨床心理学(博士号)を専門とする早稲田大学人間科学学術院の大月友教授監修のもと、学術的なエビデンスをもとに作成されています。
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ウェルビーイング診断はこちらまとめ:人的資本経営の事例をヒントに自社の施策を強化しよう
人的資本経営は、人材を戦略的資源ととらえ、企業価値を向上させる効果的な経営手法です。持続可能な成長とステークホルダーからの信頼を得るためにも、データの可視化や透明性のある開示が人的資本経営の鍵となります。
特に、ESG投資で重視される健康や安全への取り組みは、必ず開示すべき重要なポイントです。
メタメンターのウェルビーイング診断では、心理的・社会的・身体的な側面から従業員のウェルビーイングを多面的に数値化できるので「健康・安全」の情報開示のベースデータとしても使用できます。
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ウェルビーイング診断はこちら記事監修
代表取締役社長 小泉 領雄南
2011年にGMOペイメントゲートウェイ入社。2016年にGMOフィナンシャルゲート執行役員に就任し、2020年に上場。2021年、早稲田MBA在学中にコーチングに出会い、翌年メタメンター設立。2023年に国際コーチング連盟日本支部運営委員に就任。