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人的資本経営と健康経営は、企業の持続的成長に欠かせない「戦略的資産」として注目を集めています。
人的資本経営と健康経営は、近年ますます重要視されている経営戦略です。人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営と、従業員の健康を経営資源として捉え、その維持・増進を図る健康経営。これらはそれぞれ独立した概念でありながら、密接な関連性を持ち、両者を連携させることで、企業は持続的な成長と企業価値の向上を実現することができます。本記事では、人的資本経営と健康経営の基本概念から、両者の関係性、そして企業価値向上に繋がる具体的な戦略について、詳細に解説していきます。
人的資本経営と健康経営:基本概念の理解
人的資本経営と健康経営は、それぞれが独立した概念でありながら、現代の企業経営において重要な役割を果たしています。ここでは、それぞれの概念について、その定義、背景、そして企業にもたらすメリットについて詳しく解説します。
人的資本経営とは:人材を「資本」として捉える
人的資本経営とは、従業員一人ひとりが持つ知識、スキル、経験、能力といった「人的資本」を、企業にとって重要な資源と捉え、その価値を最大限に引き出すことを目指す経営手法です。従来の「人材管理」とは異なり、従業員を単なる労働力としてではなく、企業の成長を牽引する貴重な資産として捉える点が特徴です。
この考え方が注目される背景には、グローバル化の進展や技術革新の加速といった、経営環境の大きな変化があります。企業が持続的な成長を遂げるためには、優秀な人材の確保と育成が不可欠であり、そのためには、従業員のエンゲージメントを高め、能力開発を支援し、多様な働き方を尊重する人的資本経営が求められるのです。実際に、米国の経済学者ゲイリー・ベッカーは、1960年代に人的資本の概念を提唱し、教育や訓練への投資が個人の生産性向上に繋がり、経済成長に貢献することを明らかにしました。
人的資本経営を実践することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。
生産性の向上:従業員の能力が最大限に発揮されることで、組織全体の生産性が向上します。
イノベーションの促進: 多様な知識や経験を持つ人材が集まることで、新たな発想や技術革新が生まれやすくなります。
従業員エンゲージメントの向上: 従業員が自身の成長を実感し、企業への貢献意欲が高まります。
企業イメージの向上:** 優秀な人材が集まりやすくなり、企業の競争力が高まります。
健康経営とは:従業員の健康を経営資源として捉える
健康経営とは、従業員の健康を経営的な視点から捉え、健康増進のための取り組みを戦略的に実践する経営手法です。従業員の健康状態は、生産性、創造性、企業全体の活力を左右する重要な要素であり、健康経営は、従業員の健康を維持・増進することで、企業の持続的な成長を支えることを目的としています。
健康経営が注目されるようになった背景には、高齢化社会の進展や医療費の増大といった社会的な課題があります。企業は、従業員の健康を維持することで、労働力不足の解消や医療費負担の軽減に貢献するとともに、従業員の活力向上を通じて、企業全体の生産性を高めることができます。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」は、健康経営に取り組む企業を評価・認定する制度であり、多くの企業がこの制度への参加を通じて、健康経営の推進に取り組んでいます。
健康経営を実践することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。
生産性の向上: 従業員の健康状態が改善されることで、労働時間あたりの生産性が向上します。
休業・離職の抑制: 健康問題による休業や離職が減少し、人材の定着率が向上します。
企業イメージの向上: 健康経営に取り組む企業として評価され、優秀な人材が集まりやすくなります。
医療費の抑制: 従業員の健康状態が改善されることで、医療費の負担が軽減されます。
人的資本経営と健康経営の関係:相互に影響しあう重要な要素
人的資本経営と健康経営は、それぞれ異なる側面から企業価値の向上を目指すものですが、その関係性は非常に深く、相互に影響しあう重要な要素として捉えることができます。人的資本経営は、従業員の能力開発やエンゲージメント向上を通じて、企業全体の生産性を高めることを目指しますが、そのためには、従業員の健康が不可欠です。従業員が心身ともに健康でなければ、能力を十分に発揮することはできませんし、エンゲージメントを高めることも困難です。
一方、健康経営は、従業員の健康増進を通じて、企業の生産性向上や医療費抑制を目指しますが、そのためには、従業員が自身の健康に関心を持ち、積極的に健康増進に取り組む必要があります。人的資本経営の視点から、従業員のキャリア開発や自己実現を支援することで、従業員のモチベーションを高め、健康増進への取り組みを促進することができます。
例えば、あるIT企業では、従業員の健康増進を支援するために、社内ジムの設置や健康セミナーの開催に加え、キャリアカウンセリングを実施することで、従業員の自己成長を支援しています。その結果、従業員の健康意識が高まり、健康診断の受診率が向上するとともに、従業員エンゲージメントも大幅に向上しました。このように、人的資本経営と健康経営を連携させることで、企業は相乗効果を発揮し、より大きな成果を得ることができます。
健康指標が「人的資本の重要指標」として注目を集めている理由
近年、健康指標が人的資本の重要指標として注目を集めるようになってきました。その背景には、投資家やステークホルダーが、企業の持続的な成長を評価する上で、従業員の健康状態を重視するようになってきたことがあります。
投資家は、企業の将来性を評価する上で、財務的な指標だけでなく、非財務的な指標も重視するようになってきました。その中でも、従業員の健康状態は、企業の生産性や創造性、そして長期的な成長に大きく影響を与える重要な要素として認識されています。例えば、世界最大の資産運用会社であるブラックロックは、投資先企業に対して、人的資本に関する情報開示を求めるようになっており、その中で、従業員の健康に関する指標も重要な評価基準としています。
また、ESG投資(環境、社会、ガバナンス)の拡大も、健康指標が注目される理由の一つです。ESG投資とは、企業の財務的な側面だけでなく、環境への配慮、社会貢献、ガバナンス体制といった非財務的な側面も考慮して投資を行う手法であり、健康経営は、社会的な側面を評価する上で重要な要素として認識されています。
このような背景から、企業は、従業員の健康状態を把握し、健康増進のための取り組みを積極的に行うとともに、その成果を積極的に開示することが求められるようになってきています。
人的資本経営における健康指標と情報開示
人的資本経営において、健康指標は、従業員の健康状態を把握し、健康増進のための取り組みの効果を測定するために重要な役割を果たします。また、健康指標の情報開示は、投資家やステークホルダーに対して、企業の人的資本経営の取り組みを説明する上で不可欠です。
健康経営度調査の指標
経済産業省が実施する「健康経営度調査」は、企業の健康経営の取り組みを評価する上で、最も代表的な指標の一つです。この調査では、経営理念・方針、組織体制、制度・施策実行、評価・改善、そしてリスクマネジメントの5つの側面から、企業の健康経営の取り組みを評価します。
具体的な指標としては、以下のようなものが挙げられます。
健康診断受診率: 従業員の健康状態を把握するための基本的な指標です。
特定保健指導実施率: 健康リスクの高い従業員に対する支援状況を示す指標です。
メンタルヘルス対策実施状況: メンタルヘルス不調者の早期発見や予防のための取り組みを示す指標です。
労働時間管理の状況: 過重労働による健康リスクを抑制するための取り組みを示す指標です。
喫煙対策の実施状況: 喫煙による健康リスクを低減するための取り組みを示す指標です。
これらの指標を参考に、企業は自社の健康経営の取り組みを評価し、改善点を見つけることができます。例えば、ある製造業の企業では、健康経営度調査の結果、従業員の喫煙率が高いことが課題として明らかになりました。そこで、禁煙外来の費用補助や禁煙セミナーの開催といった喫煙対策を実施した結果、従業員の喫煙率が大幅に低下し、健康リスクの低減に繋がりました。
人的資本に関する情報開示で代表的な健康指標5選
人的資本に関する情報開示において、代表的な健康指標としては、以下の5つが挙げられます。
健康診断受診率: 従業員の健康状態を把握するための基本的な指標であり、投資家やステークホルダーにとっても、企業の健康経営に対する姿勢を示す重要な指標となります。
労働災害発生率: 労働災害の発生状況を示す指標であり、企業の安全衛生管理体制を評価する上で重要な要素となります。
メンタルヘルス不調による休業者数: メンタルヘルス不調による休業者の数を示す指標であり、企業のメンタルヘルス対策の有効性を評価する上で重要な要素となります。
プレゼンティーイズム損失額: プレゼンティーイズム(体調不良などでパフォーマンスが低下した状態)による損失額を示す指標であり、企業の生産性に対する健康の影響を定量的に評価する上で重要な要素となります。
アブセンティーイズム損失額: アブセンティーイズム(病気休業などによる欠勤)による損失額を示す指標であり、企業の生産性に対する健康の影響を定量的に評価する上で重要な要素となります。
これらの指標を開示することで、企業は投資家やステークホルダーに対して、自社の人的資本経営の取り組みを具体的に説明することができます。例えば、ある金融機関では、健康診断受診率の向上やメンタルヘルス対策の強化といった取り組みを通じて、プレゼンティーイズム損失額を大幅に削減することに成功しました。この成果を情報開示することで、投資家からの評価を高め、企業価値の向上に繋げることができました。
これらの指標に加えて、最近では、従業員のウェルビーイング(幸福度)に関する指標も注目を集めています。ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指し、従業員のウェルビーイングを高めることは、生産性向上や離職率低下に繋がると考えられています。企業は、従業員のウェルビーイングを測定し、その結果に基づいて、働き方改革やコミュニケーション改善といった取り組みを行うことで、従業員一人ひとりがより充実した生活を送れるように支援することが重要です。
人的資本経営と健康経営の連携による企業価値向上戦略
人的資本経営と健康経営を連携させることで、企業は、従業員の能力を最大限に引き出し、エンゲージメントを高めるとともに、健康状態を改善し、生産性を向上させることができます。その結果、企業は、持続的な成長と企業価値の向上を実現することができます。
具体的な戦略としては、以下のようなものが挙げられます。
1. 経営トップのコミットメント:経営トップが、人的資本経営と健康経営の重要性を認識し、積極的に推進する姿勢を示すことが重要です。
2. 戦略的な目標設定: 人的資本経営と健康経営に関する具体的な目標を設定し、その達成に向けて組織全体で取り組むことが重要です。例えば、「従業員エンゲージメントスコアを〇〇%向上させる」「健康診断受診率を〇〇%にする」といった具体的な目標を設定することで、取り組みの方向性を明確にし、進捗状況をモニタリングすることができます。
3. データに基づいた意思決定: 健康診断の結果や従業員アンケートの結果といったデータを分析し、課題を特定し、効果的な対策を講じることが重要です。
4. 従業員の主体的な参加: 従業員が自身の健康に関心を持ち、積極的に健康増進に取り組むように、情報提供や教育、インセンティブ制度などを活用することが重要です。例えば、健康増進に関するセミナーやイベントを開催したり、健康的な食事ができる社員食堂を設置したり、運動施設の利用を促進したりするなどの取り組みが考えられます。
5. 外部機関との連携: 健康保険組合や医療機関、専門家といった外部機関と連携することで、より専門的なサポートを受けることができます。例えば、健康診断の実施や特定保健指導の提供、メンタルヘルスに関する相談窓口の設置などを外部機関に委託することで、従業員の健康管理体制を強化することができます。
これらの戦略を実践することで、企業は、従業員の健康を維持・増進し、能力を最大限に引き出すとともに、エンゲージメントを高め、生産性を向上させることができます。その結果、企業は、持続的な成長と企業価値の向上を実現することができます。
例えば、ある大手小売企業では、経営トップのコミットメントの下、従業員の健康増進を支援するために、ウォーキングイベントの開催や健康ポイント制度の導入といった取り組みを実施しました。その結果、従業員の健康意識が高まり、運動習慣が定着するとともに、従業員エンゲージメントも向上しました。また、従業員の創造性を高めるために、アイデアコンテストを開催したり、研修制度を充実させたりするなどの取り組みも実施した結果、新たな商品やサービスが生まれ、業績向上に貢献しました。
まとめ:人的資本経営と健康経営で持続可能な企業成長を
人的資本経営と健康経営は、従業員を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すための重要な経営戦略です。両者を連携させることで、従業員の健康状態を改善し、能力を最大限に引き出すとともに、エンゲージメントを高め、生産性を向上させることができます。その結果、企業は、持続的な成長と企業価値の向上を実現することができます。
今後、ますます重要となる人的資本経営と健康経営。本記事で紹介した戦略を参考に、自社の状況に合った取り組みを推進し、持続可能な企業成長を目指しましょう。
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記事監修
WELLBEING MAGAZINE編集部
当メディア編集部は、多様なバックグラウンドを持つ専門家が集まったチームです。最新のニュース、実践的なアドバイスを提供し、読者の皆さまが信頼できる情報源として機能することを目指しています。