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【論文まとめ】ビジネスコーチングが食品中小企業の成長を加速する仕組み

記事掲載日:2026年3月18日 
最終更新日:2026年3月13日

📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Suhartanto(2024年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。


「コーチングを受けると、本当に売上が上がるのか?」

そんな疑問を持つ経営者やビジネスパーソンは少なくないはずです。
コーチングの効果は「気づきが得られた」「やる気が出た」といった主観的な感想で語られることが多く、具体的な数字で示されることはあまりありません。

しかし今回ご紹介する研究は、コーチングの前後で事業の売上や企業価値がどう変化したかを、実際のデータをもとに検証したものです。

舞台はインドネシア。
同国の食品産業は、国内GDPの約61%を担う中小・零細企業(以下、MSME)が支える巨大なセクターです。
しかし、多くの食品MSMEは資金調達の難しさ、技術力不足、経営管理の未熟さ、そして食品安全基準への対応という課題を抱えており、なかなか成長できない状況が続いています。

こうした背景のもと、インドネシア工業省は「Indonesian Food Innovation(IFI)」と呼ばれる食品MSME向けの事業育成プログラムを立ち上げました。
このプログラムは、講義(1ヶ月)とコーチング(6ヶ月)を組み合わせた実践的な支援で、参加者の事業成長を後押しすることを目的としています。

本研究では、このIFIプログラムのコーチングを受けた24名の食品MSME経営者を対象に、GROWモデルと目標設定理論を用いたコーチングが、事業パフォーマンスにどのような影響を与えたかを調べました。

結果として見えてきたのは、コーチングによる「法務・技術・経営」の三位一体のサポートが、事業のスケールアップに大きく貢献するという実証的な証拠でした。

GROWモデルとは何か?コーチングの「型」を理解する

本研究で用いられたのは、「GROWモデル」と呼ばれるコーチングの代表的なフレームワークです。

GROWとは以下の4つのステップの頭文字をとったものです。

  • G(Goals):達成したい目標を明確にする
  • R(Reality):現状を正確に把握する
  • O(Options):目標達成のための選択肢を探る
  • W(Will):行動への意志を固める

このモデルは、コーチが一方的にアドバイスを与えるのではなく、対話を通じてクライアント自身が答えを引き出していくことを重視しています。
医療・教育など多くの分野で効果が確認されており、組織のパフォーマンス向上にも有効とされています。

本研究では、このGROWモデルと「目標設定理論」を組み合わせてコーチングを設計しています。
目標設定理論とは、「具体的で挑戦的な目標を設定すると、人はより高いパフォーマンスを発揮する」という心理学の知見に基づく理論です。

IFIのコーチングでは、最初のセッションで参加者が「今後6ヶ月の財務目標と非財務目標」を設定します。
財務目標は売上と企業価値、非財務目標は技術・経営・法務の3領域に関するものです。
その後、担当コーチが毎月セッションを行い、目標達成に向けた進捗を確認・支援していきました。

目標設定理論の観点からは、このような「明確な目標+継続的なフォロー」という構造が、参加者の行動変容と成果創出を後押ししたと論文では分析されています。

驚きの結果:売上が平均2.25倍、企業価値は3倍以上に

研究の中心となるデータは、コーチング前後の事業パフォーマンスの比較です。

18名(1期生10名・2期生8名)の参加者データを分析した結果、コーチング後の年間売上は平均2.25倍、企業価値は平均3.02倍に増加したことがわかりました。

なかでも特に目立つのが、参加者コード「2-8」のケースです。
冷凍果物・野菜・魚の輸出を手がけるこの企業は、コーチング後に売上が6倍に急増しました。
背景には、インドネション国内の大手鉱山会社や南米の顧客からの突発的な大口需要があり、コーチングで得た知見を活かして液体窒素フリーザーを導入し、HACCP認証を迅速に取得することで需要に対応できたとされています。

また、5名の参加者(1-1、1-4、1-5、2-1、2-7)は、コーチングを経てビジネス規模が「零細企業」から「小規模企業」にステップアップしました。

一方で、全員が成長したわけではありません。
参加者2-5(スナック向け調味料粉メーカー)は売上が28%減少し、参加者2-3(モッツァレラチーズメーカー)は売上・企業価値ともに横ばいでした。
前者の場合、コロナ禍で主要顧客だった小学校近くの屋台業者が大半廃業したという外部環境の影響が大きく、コーチングの効果を上回るほどの市場縮小が起きていたと論文では説明されています。

このように、コーチングの成果は一律ではなく、ビジネスの種類・外部環境・経営者自身の受容性によっても異なることが示されました。

法務・技術・経営の「三位一体」がカギ

本研究が特に強調するのは、コーチングが単に「売上目標を立てる」だけでなく、法務・技術・経営という3つの側面を同時に支援したことの重要性です。

法務面では、HACCP認証の取得(9名)、インドネシア食品医薬品庁(BPOM)の流通許可取得(5名)、有限会社(PT)への法人化(5名)などが主な成果として挙げられています。
こうした法的整備は、国内の広域流通や政府調達への参加、さらには輸出市場へのアクセスに直結するため、事業拡大の「土台」として機能します。

技術面では、生産プロセスの効率化に適した機械の導入(7名)、製品の賞味期限延長(4名)などが成果として報告されています。
製品の賞味期限が延びることは、インドネシアの遠隔地や海外市場への流通を可能にするため、売上拡大の直接的な要因となります。

経営面では、マーケティング・ブランディング・販売戦略の改善(8名)、財務管理の整備(5名)、組織文化・人材育成(4名)などが挙げられています。
事業が拡大すると、オーナー一人での運営は難しくなり、人事管理や財務管理の仕組み化が不可欠になります。
論文ではこの点が「零細企業から中小企業へのスケールアップ時の必然的な課題」として詳しく論じられています。

これら3領域は独立したものではなく、相互に連動しています。
たとえば、技術投資で製品品質が上がっても、流通許可がなければ市場に出回らせることができません。
流通許可を取得しても、生産量が増えれば経営管理の仕組みが追いつかなくなります。
この「相互依存性」こそが、GROWモデルにおける「Options(選択肢)」の因子をより深く理解するうえで重要な発見だと論文では位置づけられています。

研究から得られる示唆と今後の課題

本研究を通じて浮かび上がった最も重要なメッセージは、「コーチングプログラムは業種・文脈に合わせてカスタマイズする必要がある」という点です。

論文の著者は、食品MSMEの経営者に向けて次のような示唆を提示しています。
まず、スケールアップのために適切な技術ソリューションを採用すること。
次に、市場拡大のためにすべての必要な法的要件を満たすこと。
そして、持続的な成長のために財務管理を整備することが重要だとされています。

政策立案者に対しては、IFIのようなプログラムを継続・拡充するとともに、新技術導入への税制優遇措置の提供、HACCP・ハラール認証などの取得手続きの簡素化、そして法的支援サービスの提供が提言されています。

一方で、研究にはいくつかの限界も指摘されています。
第一に、インドネシアの食品MSMEに限定した研究であるため、他の業種・地域への一般化には慎重さが必要です。
第二に、サンプル数が24名と少なく、結果の多様性に限界があります。
第三に、参加者自身による自己申告データを用いているため、結果にバイアスが生じている可能性があります。
第四に、コーチング終了後の長期的な影響は本研究では追跡されておらず、今後の研究課題として挙げられています。
第五に、パンデミックのような外部環境の影響も事業成果に関わっており、コーチングだけの効果として純粋に切り分けることが難しい部分もあります。

こうした限界はありながらも、本研究は「コーチングが実際に事業数値を動かした」という具体的なエビデンスを提示した点で、コーチング実践者や中小企業支援に関わる人々にとって参考になる知見を提供しています。

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参考文献
Suhartanto, E. (2024). The Impacts of Coaching on Innovative Food Business Performance: A Study of Indonesian Entrepreneurship Development Program. Airlangga Journal of Innovation Management, 5(3), 527-542. DOI: 10.20473/ajim.v5i3.61220

記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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