WELLBEING MAGAZINE

【論文まとめ】心理的幸福感の進化:40年間の学術研究を追う

アカデミア

記事掲載日:2024年5月12日 
最終更新日:2024年6月30日

こんにちは、メタメンターのウェルビーイングに関する研究論文を読んで、ウェルビーイングについて学術的に深く理解していこうという企画第一弾です。

概念的には少しずつ浸透してきたウェルビーイングですが、その中で特に心理的なウェルビーイングについて、これまでどんな研究がされてきたのかを紹介する、2024年の論文です。(引用: Discovering Psychological Well-Being: A Bibliometric Review, 2024/4/19, Journal of Happiness Studies)

ぜひ、皆様の参考になれば幸いです。興味が湧いたらぜひ原著も読んでみてください。

概要まとめ

イントロダクション

  • 心理的幸福感(PWB)の研究が注目を集めている背景と、この分野がどのように発展してきたのかを紹介。

研究内容

  • 研究方法:書誌計量分析の手法を用いて1980年から2022年までのデータを分析。
  • 主な発見:出版物と引用数の増加、特に2016年以降の急激な増加。
  • 国際的な貢献:米国が出版物の約三分の一を占めるなど、国別の貢献度について解説。
  • COVID-19パンデミックが研究テーマに与えた影響:研究の焦点がどのようにシフトしたか。

結論

  • この研究は1980年から2022年までの心理的幸福感(PWB)に関する学術出版物を書誌計量分析し、その発展の軌跡と影響力のある研究テーマや学者を解明。
  • PWBの研究は広範な分野に及び、その学問的および社会的重要性が増加。

イントロダクション

本研究は、1980年から2022年にかけての心理的幸福感(PWB)に関する学術出版物の書誌計量分析を通じて、この分野がどのように発展してきたかを明らかにしています。心理的幸福感は、個人の幸福と生活の質を高めるための重要な要素であり、健康、教育、職場環境など、幅広い社会生活の各領域においてその価値が認識されています。この研究は、過去数十年間にわたるPWBに関する研究の出版傾向、引用状況、および研究テーマの変遷を探ります。

1980年代に始まったPWBの研究は、当初は心理学の一分野としてのみ注目されていましたが、時間が経つにつれて、その研究範囲は公衆衛生、社会学、職業健康といった他の多様な分野に拡大しました。この拡大は、PWBが単なる心理的な健康を超え、社会的な幸福や組織内の生産性にも密接に関連していることから、多角的なアプローチが求められるようになった結果です。

本研究の目的は、PWBに関する学術的な議論がどのように進化してきたかを定量的に把握し、最も影響力のある研究者、研究テーマ、そして出版ジャーナルを特定することです。また、PWB研究が直面している現在の課題や未来の方向性についても考察します。これにより、PWBの理解を深めるとともに、この分野の研究が社会全体にどのように貢献しているかを示すことができました。

研究内容

この研究では、1980年から2022年までの間にWeb of Scienceデータベースに登録された心理的幸福感(PWB)に関する学術研究16,885件を対象に書誌計量分析を行いました。分析には、VOSviewer、Citespace、Bibliometrixなどの複数のソフトウェアツールを使用し、研究の出版傾向、引用状況、主要研究テーマ、及び分野に影響を与えた主要な研究者やジャーナルを明らかにすることを目的としています。

具体的な研究手法としては、まずWeb of Science Core Collectionデータベースを利用し、「Psychological Well-Being」または「Psychological Well Being」というキーワードで検索を行いました。得られたデータセットには、学術論文、レビュー記事、会議録、書籍章、データペーパーなどが含まれており、これらを全て分析の対象としました。文献の選定では、英語で書かれた文献のみを対象にし、最も古い研究は1980年に遡ります。

次に、VOSviewerを用いて共引用分析や共著者分析を行い、主要な研究者や研究グループ間の関連性を視覚化しました。また、Bibliometrix(R言語を基にしたツール)を使用して、研究のメタデータを分析し、研究の傾向やパターンを定量的に把握しました。Citespaceを利用しては、研究テーマの変遷やキーワードの時間的な動向を分析し、分野の発展に重要な影響を与えたトピックや概念の変化を追いました。

これらの手法を組み合わせることで、心理的幸福感に関する学術研究の全体像とその進化を体系的に捉え、どのような研究が多く行われているか、どの地域や研究機関がこの分野において重要な役割を担っているか、またどのような研究テーマが新たに注目されているかなど、多角的な洞察を提供することが可能です。

主な発見

本研究による主な発見は、心理的幸福感(PWB)に関する学術研究が1980年以降、特に2016年から顕著に増加していることです。この期間における出版物の数と引用数の増加は、PWBが精神健康、職場環境、教育といった多様な分野での重要性が高まっていることを示しています。

【世界の地理的分布と論文数の推移】

分析では、PWBの研究が心理学のみならず、公衆衛生、社会学、職業健康など、幅広い学問領域に及んでいることが明らかになりました。特に、アメリカ、イギリス、オーストラリアが研究出版物の大部分を占めており、国際的な研究の中心となっていることが判明しました。これらの国々は、心理的幸福感の研究において重要な役割を果たしており、研究のグローバルなネットワークを形成しています。

【年代別の被引用数と論文数】

また、COVID-19パンデミックがPWBの研究テーマに与えた影響も重要な発見の一つです。パンデミックによって、社会的サポートの重要性、孤独感、マインドフルネス、および心理的適応の問題が新たに注目されるようになりました。研究は、健康ケア従事者や大学生を中心に、新しい社会的課題に対するPWBの研究が増えていることを示しています。

さらに、研究では、PWBに関する最も影響力のある学術誌や研究者が下記図のように特定されました。特に「International Journal of Environmental Research and Public Health」と「Frontiers in Psychology」が最も生産的な論文誌として挙げられ、さらに、心理学者Carol D. Ryff博士が最も引用される著者でした。

【最も論文数の多い論文誌】

この研究によって、心理的幸福感の研究がどのように進化し、どのようなテーマが今後の研究で重要になるかの洞察を得ることができ、これが学術界だけでなく、広く社会全体の幸福向上に向けた政策やプログラムの設計に役立つことが期待されます。

【PWB分野のテーマ別変遷】

結論

本研究による結論は、心理的幸福感(PWB)に関する研究が過去数十年間で顕著に進化し、多様な学問領域において重要な位置を占めるようになったことを示しています。特に2016年以降の出版物と引用数の急増は、この分野が学術的にも社会的にも大きな関心を集めていることを表しており、心理的幸福感が個人の生活の質、健康、そして社会的な互動に与える影響に対する理解が深まっていることを示唆しています。

また、国際的な貢献においても、特定の国々が研究の中心であることが明らかになり、これらの国々が生成する研究が世界的なPWBの研究基準を形成していることが確認されました。しかし、研究は英語の文献に偏っている可能性があり、非英語圏の研究も含めた更なる分析が求められます。

COVID-19パンデミックは、研究の方向性にも大きな影響を与えており、パンデミックが引き起こす社会的・心理的ストレスが新たな研究テーマとして浮上しています。このことは、将来的に疾病や社会的危機が個人の心理的幸福感にどのように影響するかを理解する上での新たな枠組みを提供するものです。

この研究は、心理的幸福感の学問分野がどのように成長し続けているかを示すものであり、今後の研究者や政策立案者にとって、効果的な介入策やプログラムを設計するためのデータと洞察となります。最終的に、この研究が心理的幸福感のさらなる探求とその応用に向けた道を拓くことが期待されます。

参考文献

Discovering Psychological Well-Being: A Bibliometric Review, 2024/4/19, Journal of Happiness Studies by Busra Yiğit1 · Bünyamin Yasin Çakmak 2024/4/19, Journal of Happiness Studies used under CC BY 4.0 

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記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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