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📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Horvathら(2024年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。
「部下の成長を支援したいけれど、どう関わればいいかわからない」「リーダーシップ研修を受けたのに、現場でなかなか活かせない」——そんな悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくないのではないでしょうか。
実は、従来の研修やメンタリングだけでは補いきれない「何か」があることが、近年の研究で明らかになってきています。その「何か」を埋める可能性として注目されているのが、コーチングです。
2024年に学術誌『Journal of Dental Education』に掲載されたHorvathらの論文は、歯科教育という専門領域を舞台に、コーチングがいかにしてリーダー育成や多様性の推進に貢献できるかを体系的に論じています。歯科教育という切り口は一見、専門的に思えるかもしれません。しかし論文が提示する知見とフレームワークは、あらゆる組織・業界のリーダー育成に通じる普遍的な内容です。
新型コロナウイルスの世界的流行をきっかけに、多くの人が自分のキャリアや価値観を見つめ直しました。その結果、コーチングへの需要はあらゆる業界で急増しています。本論文は、そのような時代背景のもとで、コーチングをどう組織に取り入れ、どう活用すべきかを具体的に示したものです。
本記事では、この論文の内容を専門知識がなくても理解できるよう、わかりやすく紹介していきます。
コーチングとメンタリング——似ているようで、根本的に異なるアプローチ
多くの組織では「メンタリング」がリーダー育成の主要な手法として用いられています。メンターが豊富な経験と知識をもとに、後輩に指導・アドバイスを行うこのアプローチは、確かに有効です。しかし論文は、コーチングとメンタリングは明確に異なるものだと指摘しています。
メンタリングは特定の専門分野に焦点を当て、メンターの視点や経験からの助言・指導を中心とします。一方コーチングは、クライアントをその人生における専門家として尊重し、対話を通じた自己発見と視点の探索を促すことに重点を置きます。
具体的な違いを整理すると次のようになります。コーチングは「クライアント中心の対等なパートナーシップ」であるのに対し、メンタリングは「階層的な関係性」です。コーチングではコーチ自身がクライアントの選ぶ解決策や方向性に利害関係を持ちません。一方、メンタリングではメンターが利害関係を持つ場合もあります。また、コーチングでは強力な質問と観察を通じてクライアント自身から答えを引き出しますが、メンタリングではメンターが専門的な指導・助言を提供します。
論文はさらに、「コーチングによる発達的支援」と「業績改善・矯正目的のコーチング」の違いにも注目しています。前者はクライアントのビジョンや価値観を起点とし、長期的な成長を目指すポジティブな体験を生み出す可能性が高いとされます。後者は組織の目標や行動変容を目的とするため、クライアントの感情的コミットメントが得られにくく、防衛的な反応が生まれやすいと論文は述べています。
このような違いを理解したうえでコーチングを導入することが、効果的なリーダー育成の第一歩だと論文は強調しています。
なぜ従来のリーダー育成だけでは不十分なのか——「横の成長」と「縦の成長」
多くの組織で行われているリーダー育成プログラムは、講義形式の研修、小グループでのディスカッション、プロジェクト型学習などを中心としています。これらの手法は、専門知識の習得や技術的スキルの向上には有効です。論文はこれを「横の成長(水平的リーダーシップ開発)」と呼んでいます。
しかし、真にリーダーとして成熟するためには、思考のフレームワーク自体を変えるような、より深い変容が必要です。論文はこれを「縦の成長(垂直的リーダーシップ開発)」と表現しています。これは行動様式・マインドセット・感情的知性に影響を与える変革的な学習であり、既存の思考の枠組みを超えた新しい視点や価値観を生み出します。
コーチングは、この「縦の成長」を促す強力な触媒になるとされています。コーチングはクライアントの意識を高め、固定化した思考パターンや世界観に挑戦し、多様な視点と関わる機会を生み出します。これによって、単なる知識習得を超えた根本的な変容が促されます。
また論文は、コーチングと従来型リーダー育成プログラムを組み合わせることの有効性も指摘しています。たとえば、360度フィードバックなどのアセスメントツールは、単独で使用すると受け手に防衛的な反応を引き起こす場合があります。しかしコーチングと組み合わせることで、コーチがクライアントのフィードバックを建設的に受け取り、それを成長に活かすプロセスを丁寧にサポートできると論文は述べています。
さらに、コーチングがリーダー育成において特に力を発揮するのは、目標設定・問題解決・変化への適応・関係構築・内省といった領域であることが示されています。これらはいずれも、現代の組織リーダーに求められる中核的な能力です。
多様なリーダーを育てる——コーチングが「見えない壁」を取り除く
論文が特に力を入れて論じているテーマの一つが、多様なリーダーの育成です。女性や人種的・社会的マイノリティなど、リーダーシップポジションに歴史的に参入しにくかった人々に対するコーチングの効果が、複数の研究から示されています。
歯科医療や歯科教育の分野では、女性リーダーの機会は依然として限られており、女性専門職がキャリアの中で直面するさまざまな障壁が記録されています。論文はこれらの障壁を、個人的障壁(燃え尽き症候群、インポスター症候群)、対人的障壁(サポートの欠如)、組織的障壁(差別的行動)、さらには制度的・社会的障壁に分類しています。
コーチングはこのような障壁を乗り越える手助けができます。クライアント自身がリーダーシップポジションを目指す、あるいはその役割で成功する際の妨げとなっている要因を、コーチングを通じて探索・克服できるからです。さらに、コーチングには従来のメンタリングが持つ潜在的なネガティブな影響を緩和する効果もあるとされています。
論文が引用するある研究(Williams et al., 2016)では、大学院生に対するメンタリングにコーチングを加えることで、多様な背景を持つ学生が学術キャリアに留まり続ける可能性が高まることが示されました。このように、コーチングはダイバーシティ推進においても実証的な効果を持つアプローチとして位置づけられています。
また、グループコーチングやピアコーチングも、組織内で多様性を育む手段として有効だと論文は述べています。チームや部門単位でコーチングを取り入れることで、個人だけでなく組織全体のカルチャーが変わる可能性があります。
歯科教育の現場で進む実践——具体的な導入事例と手順
論文は、歯科教育の現場ですでに始まっているコーチング活動の事例を複数紹介しています。ピッツバーグ大学歯科医学大学院では、教員向けメンタリングプログラムの補完としてコーチングオプションを設け、学部生向けにはキャリアコーチングを個別および集団形式で提供しています。ノースカロライナ大学チャペルヒル校では、学術リーダーのオンボーディング支援や教員・リーダー向けのコーチングが提供されています。ボストン大学やアイオワ大学でも、初任教員向けのキャリアサポートや変化管理支援にコーチングが活用されています。
論文はまた、歯科系教育機関がコーチングプログラムを立ち上げるための8ステップのガイドラインを提示しています。①ICF(国際コーチング連盟)の定義に基づいてコーチングを正式に位置づける、②コーチング文化を醸成する、③対象者とプログラム目標を特定する、④外部・内部コーチングのいずれかを選択してリソースを確保する、⑤評価計画を立てる、⑥プログラムを開始する、⑦フィードバックと成果指標を収集する、⑧結果に基づいてプログラムを調整する——という流れです。
コーチングの形態としては、エグゼクティブコーチング(現リーダー・後継者候補向け)、リーダーシップコーチング(教員・スタッフ向け)、キャリア・プロフェッショナルコーチング(メンタリングとの併用)、グループコーチング、ピアコーチング、研修生向けの個別コーチングなど、多岐にわたる選択肢が示されています。それぞれに推奨される期間(6ヶ月〜24ヶ月)や対象者も整理されており、組織の規模や目標に応じた段階的な導入が可能です。
まとめ——コーチングは組織を変える「見えない投資」
Horvathらの論文が示すメッセージは明快です。コーチングは単なる個人の自己啓発ツールではなく、組織全体を変革するポテンシャルを持つ、エビデンスに基づいたアプローチだということです。
特に、従来型のリーダー育成プログラムが「横の成長」を促すものであるのに対し、コーチングは「縦の成長」——つまりマインドセットや行動様式の根本的な変容——を促す点で、補完的かつ不可欠な役割を担います。研修やメンタリングと組み合わせることで、より大きな効果が期待できます。
また、女性やマイノリティを含む多様なリーダーの育成においても、コーチングは「見えない壁」を乗り越える力になり得ます。インポスター症候群や組織内の差別的慣行といった障壁に対して、コーチングは内側から変容をもたらすアプローチとして機能するのです。
一方、論文は研究の限界についても率直に述べています。歯科教育分野におけるコーチングの効果を示すデータはまだ乏しく、医学教育などに比べると研究の蓄積が少ないという現状があります。論文の著者たちは、歯科教育コミュニティに対して、コーチングの実践事例とその成果を積極的に共有し、学術的な知見を積み重ねていくことを強く求めています。
コーチングの導入は、大きな予算や大規模な組織改革を必要とするわけではありません。まず小さな取り組みから始め、フィードバックをもとに改善を繰り返しながら発展させていくことが、論文が推奨するアプローチです。
個人を変え、チームを変え、組織の文化そのものを変える——コーチングという「見えない投資」の力は、歯科教育という専門領域を超えて、あらゆるリーダーと組織に示唆を与えてくれます。
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Horvath Z, Wilder RS, Guthmiller JM.(2024). The power of coaching: Developing leaders and beyond. Journal of Dental Education, 88(Suppl. 1), 671–677. DOI: 10.1002/jdd.13535
記事監修
WELLBEING MAGAZINE編集部
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