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【論文まとめ】学校コーチングが専門的成長を促す理由

記事掲載日:2026年3月13日 
最終更新日:2026年3月10日

📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Lofthouse(2018年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。


「コーチングを導入したのに、なかなか変化が見えない」「コーチングって、結局何をするものなのか分からない」——そんな声を、教育現場の管理職や教員から聞くことがあります。

コーチングは近年、学校現場や教師向けの研修プログラムに急速に広がっています。しかしその定義は曖昧なまま使われることも多く、「評価のための観察」と混同されたり、成果を急ぎすぎて関係が壊れてしまったりするケースも少なくありません。

今回紹介するのは、イギリスの研究者レイチェル・ロフトハウス教授が2018年に発表した論文「Coaching in Education: a professional development process in formation(教育におけるコーチング:形成途上にある専門的発達プロセス)」です。

この研究では、教育現場で実際にコーチングを行う6名の実践者たちの対話を分析し、コーチングがどのような価値をもたらすのか、またどのように機能するのかを探っています。

規模の大きな量的調査ではなく、実践者たちの生の語りに耳を傾けた質的研究です。数字では見えにくい「コーチングの本質」に迫る内容となっています。ビジネスパーソンや人材育成に関わるすべての方にとっても、多くの示唆を含んでいます。

研究の背景:イギリスの教育現場でコーチングが広がった理由

この研究が行われたイギリスでは、過去10年ほどの間に教育の仕組みが大きく変わりました。従来は地方教育委員会や大学が教師の研修を担っていましたが、それが「学校主導の自律改善システム」へと移行しました。Teaching SchoolやMulti-Academy Trustといった新しい組織が生まれ、民間企業やコンサルタントが教育現場に関与する機会も増えました。

コーチングもこの流れの中で広がってきました。独立したコーチが学校外から支援するケース、学校内のスタッフがコーチ役を担うケース、そして研修プログラムにコーチングが組み込まれるケースなど、さまざまな形が生まれています。イギリスの教育省もコーチングを積極的に推進しています。

しかし一方で、コーチングの「効果」に関する研究はまだ十分ではなく、教育現場で働くコーチのための国家的な資格制度や基準も存在しません。つまり、コーチングは急速に広がりながらも、その実態や価値については十分に検証されていないのです。

この研究はそうした背景のもとで、「教育現場のコーチングとは実際どのようなものなのか」「なぜコーチングには意味があるのか」を探るために行われました。

どうやって調べたか:6人のコーチによる連鎖対話

この研究のユニークな点は、その調査方法にあります。2017年3月、研究者のロフトハウス教授は新たに設立した大学の研究実践センター「CollectivED」の公開イベントで、教育現場でコーチングを行う5名の実践者とともに、計6回の対話セッションを実施しました。

この6回の対話は「連鎖対話」という形式で行われました。まず著者とコーチ1が対話し、次にコーチ1とコーチ2が対話し、さらにコーチ2とコーチ3が……というように、各9分間の対話が順番につながれていきます。共通の問いはただひとつ、「なぜ教育現場でコーチングをするのか?」というものでした。

約60名の教育関係者が聴衆として見守る中で行われたこの対話は、音声録音され、繰り返し聴いて分析されました。各コーチの「何をしているか(doings)」「どんな言葉を使っているか(sayings)」「どんな関係を築いているか(relatings)」という3つの視点から整理されています。

参加した6名のコーチは、それぞれ異なるバックグラウンドを持っています。小学校の上級管理職として校内コーチングを担う教師、言語療法士として映像を使った教師支援を行う専門家、学校リーダー育成センターでコーチ資格を取得した実践者、元校長として地域と学校をつなぐコミュニティコーチ、「考える環境(Thinking Environment)」という手法を使うフリーランスのファシリテーター、そして著者自身(研究者兼コーチ)です。

この研究は規模は小さく、自己申告によるデータに依存するという限界もありますが、多様なコーチたちの語りから浮かび上がってくるパターンには説得力があります。

コーチングに共通するもの:対話・構造・真正性

6名のコーチが異なる現場で異なるアプローチを持ちながらも、対話を通して浮かび上がったのは、いくつかの重要な共通点でした。

まず最も重要な共通点は、「コーチとコーチーが対話に入ること、そしてその対話を通じて何かが学ばれ、変化が生まれること」への期待です。コーチングの目的は指導や評価ではなく、対話を通じた共同探究にあると、全員が認識していました。

次に、すべてのコーチが何らかの「構造・手順・ツール」を使っていたという点が挙げられます。ある人は授業前の共同計画→授業観察・映像記録→授業後の振り返りという3段階のサイクルを用い、別の人は「考える環境(Thinking Environment)」の10の要素(場の設定、平等性、励まし、傾聴、承認、心の余裕、多様性、情報、感情、核心を突く質問)を実践の規律として活用していました。こうした構造は単なる習慣ではなく、各コーチが実践の中で意図的に磨き上げてきたものです。

また、コーチングは「本物の」課題に向き合うプロセスとして認識されていました。教育現場というリアルな文脈の中に埋め込まれ、画一的ではなく個々の状況に応じた「オーダーメイドの支援」であることが強調されました。

一方で、コーチたちは「コーチングとは何ではないか」についても言及しています。「人を助けたい、救いたい」という気持ちから助言や指導に走ることはコーチングではない、「すぐに成果を出すこと」を求められる圧力に負けることもコーチングの本質から外れる、というのが共通した認識でした。

コーチ自身の「形成」:経験が実践を変える

この研究で予想外の発見となったのが、コーチたち自身がどのようにコーチとして成長してきたかという「コーチの形成プロセス」でした。当初は研究課題として設定していなかったにもかかわらず、対話の中でこのテーマが自然と浮かび上がってきたのです。

各コーチの語りからは、いくつかの共通パターンが見えてきます。まず、コーチングの実践が始まる時期は、新しい雇用やフリーランスへの転身、専門的な学びへの取り組みと重なっていることが多いという点です。

例えば、元校長のサイモンは在職中から学校と地域コミュニティの関係構築に情熱を持ち、退職後に「コミュニティ・キャパシティ・コーチ」として独立しました。ルースは上級管理職として採用された際に、教師の授業改善を支援するコーチという役割を与えられ、当初は「コーチングが教師に押し付けられる」という状況に苦しみながらも、徐々に信頼関係を築き、より協働的なアプローチへと進化させていきました。

また、コーチングはコーチ自身にとっても形成的なプロセスであることが明らかになりました。実践を通じて自分自身についての理解が深まり、教育現場の複雑さへの洞察が増し、コーチとしての技能と可能性への自覚が育まれていくのです。コーチングとは、固定された技術セットを習得すれば完成するものではなく、時間とともに進化し続けるものだということです。

さらに、コーチたちは皆、20年以上の豊富な実務経験を持ってからコーチングに入っていました。この経験の深さが、コーチングの質にどう影響するかは今後の研究課題として指摘されています。

コーチングの核心:関係性という社会的空間

分析を通じて最も多く語られたのが「関係性(relatings)」の次元でした。このことは、コーチたち自身がコーチングを何よりも「関係性の実践」として捉えていることを示しています。

コーチングには「ゲートキーパー」の存在があります。多くの場合、上級管理職がコーチングを「許可」したり「依頼」したりする立場にあります。外部の専門家であるコーチが学校に入り、課題を「修正」することを期待される場面では、コーチとコーチーの間に力の不均衡が生まれやすくなります。

コーチたちはこの力の不均衡を認識しており、それを乗り越えるために時間をかけて信頼関係を育んでいました。言語療法士のジョーは「最初は専門家として入っていくつもりだったが、実際には共に解決策を見つけていく全く異なるプロセスだった」と語っています。

効果的なコーチング関係として描かれたのは、コーチとコーチーが共にコーチーの本物の関心や実践について話し合い、これまで表に出なかった証拠や経験を持ち寄る場です。映像の活用、傾聴の質、非評価的な空間の創出、そして時間をかけた信頼の構築と守秘義務の維持が、その基盤となっていました。

最も成功したコーチングにおいて起きていたのは「共同構築(co-construction)」でした。その瞬間に生み出されるアイデア、文脈への共有理解、コーチとコーチー双方の貢献が積み重なることで、新たな知識と実践が生まれていくのです。

また、コーチたちの個人的な価値観と専門的実践の一致も重要な要素として浮かび上がりました。ルーは「考える環境での仕事は、教育者としての自分の価値観と完全に一致している」と語り、サイモンは地域と学校をつなぐ仕事に「情熱」を感じると述べました。こうした価値観との一致が、コーチングを単なる技術的な仕事ではなく、深い意味のある実践にしていると論文は示唆しています。

まとめ:コーチングが教育現場に何をもたらすか

この研究から浮かび上がってきたのは、コーチングが教育現場において単なるスキル研修を超えた価値を持つ可能性です。

ひとつは、成果主義(パフォーマティビティ)への対抗力としての役割です。「成績を上げろ」「すぐに改善しろ」というプレッシャーが強い学校文化の中でも、コーチングが十分な時間をかけて関係性を育む機会を持てば、教師の自律性と探究心を支えるものになり得ると論文は述べています。

もうひとつは、「集団的有効性(collective efficacy)」の構築への貢献です。コーチングが個々の教師を超えて、学校コミュニティ全体の「自分たちはできる」という信念を育むことに繋がる可能性があるという点は、特に注目に値します。

さらに、教師の「エージェンシー(主体性)」を高める場としての役割も指摘されています。過去の多様な経験を活かし、複数の未来の可能性を探り、現在の文脈の中で主体的に判断する力——これがコーチングを通じて育まれる可能性があります。

論文の著者は、コーチングが「変革的なCPD(継続的専門性開発)」として機能するためには、単に個人のニーズを満たすだけでなく、生徒や同僚への具体的な教育成果と結びついていることが重要だと強調しています。

研究の限界としては、データがコーチ自身の自己申告に依存していること、対話の時間が短かったこと、コーチーの視点が含まれていないことが挙げられています。今後の課題として、コーチの経験年数と成熟度がコーチングの質に与える影響の検証、コーチーの立場からの研究、そして教師の定着・ウェルビーイングとコーチングの関係性についての調査が提案されています。

教育現場でのコーチングを考えるすべての方にとって、「コーチングとは何か」を問い直す貴重な研究です。


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参考文献
Lofthouse, R. M.(2018). Coaching in Education: a professional development process in formation. Professional Development in Education, 45(1), 33–45. DOI: 10.1080/19415257.2018.1529611

記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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