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【論文まとめ】看護師の離職を防ぐ:コーチングの可能性

記事掲載日:2026年3月16日 
最終更新日:2026年3月13日

📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Diakら(2020年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。


「看護師が足りない」というニュースを耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
実は、この問題はポーランドだけでなく、EU全体が直面している深刻な課題です。

看護師が不足する背景には、単純な「人手不足」以上の複雑な事情があります。
看護の資格を持ちながらも現場で働かない人、途中でキャリアを離れていく人、そして燃え尽き症候群(バーンアウト)に悩む人が後を絶たないのです。

ヤギェウォ大学医学部のDiakらの研究チームは、この問題に対して「コーチング」という観点から切り込みました。
2020年に発表されたこの論文は、看護師の職業的・個人的な成長においてコーチングがどのような役割を果たせるかを、既存の文献を幅広く分析することで明らかにしようとしたものです。

看護という仕事は、患者の状態把握・ケア計画・治療や検査の補助など、非常に幅広い専門業務を含んでいます。
医師・理学療法士・心理士などと連携しながら多職種チームの一員として働く一方で、患者や家族からの感情的なプレッシャー、時には暴力やハラスメントにさらされることも珍しくありません。

このような過酷な環境の中で、看護師が自分のキャリアと人生を主体的に設計していくことは容易ではありません。
だからこそ、研究者たちはコーチングが持つ可能性に注目したのです。

看護師が直面する「やりがい搾取」の現実

論文によれば、EU諸国全体で看護師不足は深刻化しており、その影響は患者の安全にも直結しています。
欧州の7カ国共同研究プロジェクト「RN4CAST」は、看護スタッフの数が増えるほど患者の死亡率が下がるという結果を明確に示しました。
つまり、看護師不足は単なる労働問題ではなく、医療の質そのものに関わる問題なのです。

では、なぜ看護師は離職するのでしょうか。
論文が引用する研究では、ポーランドの看護師の約50%が仕事への不満を訴えており、この数字はアメリカ(41%)やイギリス(36%)とも大きく変わりません。

特に注目すべきは、精神科病棟の看護師を対象にした調査で、37%が「給与とは関係なく、精神的・身体的ストレスが高いために満足できない」と回答していたという点です。
つまり、待遇改善だけでは解決できない「心の問題」が、離職の主要因になっているということです。

さらに、欧州の複数病院を対象にした研究では、約30%の看護師がバーンアウト(燃え尽き症候群)の高リスク状態にあることが示されています。
バーンアウトは離職を予測する重要な指標であり、一度このサイクルに入ると抜け出すことが難しくなります。

加えて、看護師はキャリアアップのための学習意欲を持ちながらも、現場での過重労働、複数掛け持ちによる疲弊、教育費の負担など、多くの障壁に直面しています。
論文は、こうした状況を打開するひとつの手段として、コーチングの活用を提唱しています。

コーチングとは何か――ICFの定義から読み解く

論文では、コーチングをICF(国際コーチング連盟)の定義にもとづいて紹介しています。
コーチングとは、コーチとクライアント(コーチー)の対等なパートナーシップに基づくプロセスであり、クライアントが自ら目標を設定し、その達成に向けて行動する力を引き出すことを目的としています。

重要なのは、コーチが「答えを教える」のではないという点です。
コーチは傾聴とオープンクエスチョン(開かれた質問)を通じて、クライアントが自分自身のリソース(資源・強み)を活用しながら最善の道を見つけられるよう支援します。
変化の責任はあくまでクライアント自身にあり、それがセルフエンパワーメント(自己効力感の強化)につながるのです。

コーチングのセッションは対面・オンライン・電話など柔軟な形式で行われ、テーマも職業的成長・健康・マネジメント・ワークライフバランスなど多岐にわたります。
回数や期間はクライアントとコーチの合意によって決まり、画一的なプログラムではありません。

また、論文はキャリアコーチングが看護師に対して特に以下の点で有効だと述べています。

  • 自分自身の発展計画を意識的に立てること
  • 自分の強みと価値観に焦点を当てること
  • 実績と今後の展望を踏まえてキャリア状況を客観的に捉えること

これらはまさに、バーンアウト予防にも直結するアプローチです。
実際に、複数の研究者がキャリアコーチングをバーンアウト予防策のひとつとして位置づけています。

コーチングで看護師に何が変わるのか――研究が示した効果

論文は、コーチングを実際に導入した事例や研究の成果をいくつか紹介しています。

韓国のBaekとJangが行った研究では、コーチングプログラムを受けた看護師グループと受けなかったグループを比較した結果、受けたグループのほうが「仕事への満足感」「感情的な知性(感情をうまく扱う力)」「自己効力感(自分はできるという感覚)」「コーチングスキル」のすべてにおいて、データで確認できるほど改善していたことが分かりました。

また、ヒューストン・メソジスト病院で導入された「看護師キャリアコーチング・職業的成長プログラム」に関する報告では、以下のような効果が確認されています。

  • ワークライフバランスの向上
  • 人生目標・職業目標の達成
  • 仕事への満足感の向上
  • 生涯学習(継続的な学びの姿勢)の促進
  • 職業の継続(離職防止)への貢献可能性

さらに、ICN(国際看護師協議会)向けに作成されたDonnerとWheelerの報告書では、コーチングが「職業的成長の支援」「仕事満足度の向上」「職場定着力の強化」「対人関係・コミュニケーションの改善」にも寄与することが述べられています。

これらの知見は、コーチングが単に「目標を立てるツール」ではなく、看護師が職場で充実感を持って働き続けるための包括的なサポートになり得ることを示しています。

まとめ――コーチングは看護師の「人生設計」を支援できるか

本論文が示す最も重要なメッセージは、看護師が抱える問題の多くは「お金の問題」だけではないということです。
仕事の満足感、燃え尽き症候群、キャリアの行き詰まり感――これらは非財務的な課題であり、コーチングによってアプローチが可能な領域です。

論文の著者たちは、コーチングを看護師の教育段階から取り入れることで、社会的コンピテンシー(対人能力)の形成、職場への主体的参加、仕事満足度の向上につながる可能性があると述べています。
さらに、これが卒業生の就業促進、職場定着率の向上、将来的には若者が看護師というキャリアを選ぶ動機づけにもなり得ると指摘しています。

一方で、論文は研究の限界についても率直に認めています。
今回の研究は既存の文献を分析・考察したレビュー論文であり、コーチングの有効性を直接測定した介入研究ではありません。
著者たちは「看護師へのコーチングの効果を検証するためのさらなる応用研究が必要だ」と明記しており、現時点では看護師向けコーチングの実証データはまだ限られています。

特に「患者のウェルビーイングや安全にどう影響するか」という点は、今後の研究課題として残されています。
コーチングが看護師を元気にするだけでなく、その先にある患者ケアの質向上にまでつながるかどうか――それを明らかにすることが、次のステップとして求められています。

看護という職業の持続可能性を考えるとき、給与や制度だけではなく、個々の看護師が「自分らしいキャリアと人生を設計できる」環境づくりが求められています。
コーチングはその一助となり得る、科学的根拠を持ったアプローチとして注目されています。

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参考文献
Diak, A., Sułkowska, J., Kuźmicz, I., Malinowska-Lipień, I., Gniadek, A., & Brzostek, T.(2020). Coaching in the professional and personal development of nurses. Pielęgniarstwo XXI wieku / Nursing in the 21st Century, 19(1), 42–46. DOI: 10.2478/pielxxiw-2020-0005

記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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