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AIの発展にともない、メンタルヘルスケアの現場でもAIを活用するケースが急速に増えています。「どこまでAIに任せていいのか」「専門家の役割はなくなるのか」と不安や疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人としてAIを取り入れたい方と、支援者・専門職としてAIを活用したい方を対象に、AIによるメンタルヘルスケアが広がった背景や具体的な活用シーン、注意点を解説します。さらに、AIが専門家の仕事にどのような影響を与えるのか、協働の可能性についても触れます。
AIの特徴と限界を理解したうえで、ちょうど良い距離感でAIを活用したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
AIを活用したメンタルヘルスケアの効果をより高めるには、自分自身やクライアントの現状を把握したうえで施策を取り入れるのがポイントです。メタメンターでは、心理的・社会的・身体的な側面から現状のウェルビーイングを可視化するウェルビーイング診断を無料で提供しています。
まずは自身の状態を客観的に知るところから始めたい方は、現状把握や効果検証の手段としてご活用いただけますので、下記から試してみてください。
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ウェルビーイング診断はこちらAIを活用したメンタルヘルスケアが急速に広がった3つの背景

まずは、メンタルヘルスケアの分野でAIが注目されるようになった背景について解説します。AIを活用したメンタルヘルスケアが急速に広がった理由は、次の3つです。
AIが活用されるようになった背景を知れば、社会的ニーズの変化を把握したり利用への心理的ハードルを下げたりする効果が期待できます。
h3 背景1.メンタルヘルス専門職の深刻な不足
まず挙げられるのが、メンタルヘルスの専門職不足です。WHOの調査によると、世界のメンタルヘルス労働者の中央値は人口10万人あたり13人と、深刻な不足が指摘されています。
SDGsでは、2030 年までに世界の自殺死亡率を3分の1削減する目標を掲げています。しかし、現時点で達成は非常に困難な状況です。WHOもメンタルヘルスサービスの拡大を強調していることから、AIが活用されるようになった背景があります。
参考:精神的な健康状態を抱える10億人以上の人々――サービスは緊急の拡大が必要です|WHO
背景2.誰にも相談できない層への対策
これまで専門職がカバーしきれなかった層への受け皿として、AIが活用されるようになったのも理由のひとつです。日本医療政策機構の世論調査では、こころの不調を感じた際の相談先が「ない」と答えた人が30%も存在することが明らかになっています。

出典:日本医療政策機構(Health and Global Policy Institute)
さらに、自費カウンセリングや学校や勤務先の相談窓口、公的な相談窓口などを相談先に選ぶ人は5%以下という結果でした。つまり、メンタルヘルスの問題を誰にも相談できない層が一定数存在する、ということです。
よくある例としては、病歴やセクシュアリティなどの悩みを抱えていて、相手の反応が怖くて相談できないケースです。専門職に相談したくても、地方在住や経済状況などを理由にカウンセリングを利用できない方もいます。
AIなら時間や場所を選ばず誰でも気軽に相談できるため、専門職が介入しにくい対象へのアプローチも可能です。AIの活用は、メンタル不調の発見や対処が遅れ重症化するリスクへの対策として期待されています。
背景3.AIの技術進歩と需要増
自然言語処理AIの精度向上で、人間らしい対話や共感的な応答ができるようになったのも理由として挙げられます。COVID-19によるパンデミックを機に、信頼性が高く効果的なデジタルツールの重要性がより強調されるようになりました。
デジタルツールとして、簡単かつ低コストでスマートフォンやパソコンから利用できるAIアプリなどが注目されています。オンラインでの支援を求める人々に対し、AIチャットボットがすぐ使える相談窓口として急速に普及するようになりました。
参考:COVID-19パンデミックは世界で不安とうつの有病率を25%増加させました|WHO
メンタルヘルスケアへのAIの具体的な3つの活用シーン

メンタルヘルスケアへのAIの具体的な活用シーンは下記の3点です。
活用シーンを知っておくと、より最適なAIサービスを選択しやすくなります。
事例1.対話型AI(チャットボット)によるカウンセリング
AIチャットボットは、AIが話に耳を傾け共感しつつ返答してくれるサービスです。自然言語処理技術の向上によって、感情に寄り添う応答も可能になったことからニーズが増加しています。
人間によるカウンセリングが難しい深夜や早朝など、24時間いつでも利用できるのがメリットです。気分や睡眠の状況を聞き取ってストレス要因を整理し、深呼吸などセルフケア方法を提案してくれるサービスもあります。
事例2.感情分析による不調の早期発見
行動や音声、映像データも不調のサインの通知に活用されています。AIはパターン認識が得意なため、行動や音声、映像データを自動解析し、人が気づかない微細なメンタルヘルスの変化の分析が可能です。
【AIが認識する微細な変化の例】
・文章のネガティブ表現増加
・深夜SNS利用増
・声のトーン
・話す速度の変化 など
AIが不調のサインを通知することでタイムリーに介入でき、自殺リスクの軽減に寄与する効果も期待できます。
参考:医療における人工知能の倫理的統合:グローバルな課題と戦略的解決策のナラティブレビュー |PMC
事例3.認知行動療法(CBT)など専門的なセルフケア
継続が難しいCBT(認知行動療法)のワークも、AIを活用することで習慣化しやすくなります。CBTは心理療法の一種で、ネガティブな思考パターンや行動の変容により、精神的な問題を改善する手法です。
たとえばCBTでよくおこなわれる日記をつける思考記録などのワークを、対話形式でサポートするのにAIが活用されています。AIが「そのとき、どのように考えましたか?」と質問を投げかけることで、思考のクセ(認知の歪み)を特定しやすくなります。
認知行動療法(CBT)の基本的な考え方や、どのような悩みに効果が期待できるのかを詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
認知行動療法とは?CBTの基本と期待される効果
「認知行動療法とは」の基本と効果をわかりやすく解説。自己改善を目指すあなたに、具体的な方法と日常での適用を紹介します。精神的健康を取り戻すためのステップを学び、実践しましょう。
記事掲載日:2024年5月26日
AIを活用したメンタルヘルスケアにはさまざまな選択肢があります。自分やクライアントに合う活用方法を見極めるためには、まず現状の把握がポイントです。
ここからは、自身やクライアントの現状を統合的に把握できる「ウェルビーイング診断」について紹介します。
AIの導入前にウェルビーイング診断で現状を把握するのが効果的

AIを効果的に活用するには、導入前にウェルビーイング診断で統合的に現状を把握するのがポイントです。ウェルビーイング(心理的、社会的、身体的に満たされた状態)の状態がわかれば、自分やクライアントに適した支援が明確になります。

【ウェルビーイング診断結果ごとの支援策の例】
・人間関係に課題:対話型AIを活用し悩みを整理し解決策を考える
・メンタルマネジメントに課題:感情分析のできるAIで不調の早期発見につとめる など
AIで改善したいポイントが明確になれば、メンタルヘルスケア導入後の変化を振り返りやすくなるのもメリットです。メタメンターのウェルビーイング診断なら、自己理解に役立つデータを短時間で得られます。
AIを導入する前に自分の状態を一度整理しておきたい方は、こちらから無料診断をご利用ください。
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ウェルビーイング診断はこちらAIを活用したメンタルヘルスケアにはメリットだけではなく、注意しておきたい限界やリスクもあります。安全に活用するために、代表的なポイントをチェックしましょう。
AIカウンセリングの限界と4つのリスク

AIは万能ではないため、次のような注意点を踏まえたうえで、AIに任せる範囲を決めたうえで利用するのがポイントです。
AIの限界やリスクを知り、過信を防ぎ適度な距離感で活用する参考になれば幸いです。
リスク1.AIに診断や緊急対応は不可能
まず知っておいてほしいのが、疾患の確定診断や医療行為、緊急時の介入はAIには難しいということです。日本の医師法では、無資格者の診療行為は禁止されています。
参考:AIによる診療支援と医師の判断との関係性の整理|厚生労働省
AIが、現場での物理的な対応能力までは有していない点も知っておく必要があります。相談窓口の案内はできても、警察や救急への通報・保護といった直接的な介入については保証されません。
【AIの利用が適さない例】
・自傷他害の恐れがある対象への緊急時の対応
・自分にメンタル疾患があるかどうか知りたいニーズへの対応
リスク2.人の感情に共感することへの限界
次に挙げられるのが、AIは感情そのものを持っているわけではなく、統計的に適切な言葉を選んでいるに過ぎない、という点です。研究者も「AIに本物の共感は不可能」と指摘しています。
参考:Can we replace human empathy in healthcare? | UC Berkeley Public Health
AIの共感は模倣に過ぎず、複雑な価値観やニュアンスを理解するのには限界があります。そのため、AIに深い苦しみを打ち明けても、返答に違和感を覚えたり「わかってもらえなかった」と悩みをより深めてしまったりする恐れもあります。
リスク3.プライバシー保護や情報の正確性への不安
技術が急速に進化していても、AIから出力される回答は正確とは限りません。AIは、もっともらしい誤情報(ハルシネーション)を生成する性質があるためです。メンタルヘルス分野でも根拠のないアドバイスや、有害な誤情報を伝えてしまう危険性があります。
個人データが学習に使われたり、第三者に提供されたりといったセキュリティ面での不安もあります。AIチャット相談では、ユーザーの悩みや個人情報がクラウド上に保存されるケースが珍しくないためです。
対策としては、AIアプリを利用する前に利用規約を確認するといった方法が挙げられます。データが第三者に提供されないか、学習データに使われるかどうかなどをチェックしましょう。
リスク4.過度な依存が孤独を深める可能性
人によっては、AIの利用によって、現実の人間関係をおろそかにしてしまうリスクもあります。AI相手なら、人間と異なり自分の思い通りの対話が可能です。そのためAIとの対話に快適さを覚えすぎてしまい、過剰な愛着を持ってしまうケースがあります。
【AIによる生活への悪影響の例】
・対話型AIに依存し、家族との時間よりAIとのやりとりを優先してしまう
・人とのつながりが希薄化し、社会的に孤立してしまう
AIの利用当初は孤独感を軽減できても、時間とともに他者との交流を煩わしく感じてしまう可能性が危惧されています。
参考:Minds in Crisis: How the AI Revolution is Impacting Mental Health|Keith Robert Head
AIは専門家に取って代わる?これからのメンタルケアの形

「AIの発展で、メンタルヘルスの専門家は不要になるのではないか」という懸念を抱く方もいるかもしれません。AIは専門職のケアをすべて置き換えるものではなく、補完し強化するために用いられます。
ここではメンタルケアの専門家に向けて、AIを活用したケアや具体的な事例などを紹介します。
AIと専門家が協働してメンタルケアをおこなう時代へ
今後は、AIと専門家それぞれの強みを活かした役割分担がさらに進むと予測されます。データ整理やモニタリング、一時対応にAIを活用し、専門家は診断・治療や高度な共感的支援を専門的に担うといった例です。
それぞれの得意領域を組み合わせれば、限られたリソースのなかでケアの効果を最大化できます。
【コーチング・カウンセリングの例】
AIの役割
・セッションの録音・文字起こし・要約
・発話回数・感情の揺れ・テーマの変遷などを自動で分析
・「前回からよく出ているキーワード」や「詰まっている問い」を整理して、振り返り用レポートを作成
専門家の役割
・AIが整理した情報を踏まえて、「今この人が本当に向き合いたいテーマ」を一緒に言語化
・クライアントの価値観・人生背景に沿った問いかけや、感情への共感的な関わり
・キャリア選択や大きな決断に対する伴走・支援
組み合わせることでコーチやカウンセラーが「記録・まとめ」に費やす時間を削減し、セッションの質と共感的対話にリソースを全振りできる
AIからの情報をもとに専門家が介入すれば、見落としや対応遅れを防げるのもメリットです。
実際に岡山大学では患者の孤独感や不安の軽減を目指すために、24時間365日利用可能なAIシステムを開発しました。従来の医療者によるサポートと併用し、より効果的で包括的なケアを目指しています。
参考:AIを活用したメンタルケアサポートシステムを開発~患者さんとの対話で心に寄り添うAI~|国立大学法人 岡山大学
メンタルヘルス支援における「共感疲労」への対策がAIで可能に
メンタルヘルス支援は感情労働であり、対象者へ深い共感を示すエネルギーが必要です。感情労働を求められる職種は、共感疲労や燃え尽き症候群に陥りやすい傾向があります。情緒的・肉体的な消耗を最小限にし、ケアの質を担保するのにもAIの活用が有効です。
主な例としては、AI搭載のウェアラブル(身体に装着して使用するデバイス)の活用です。心拍数、睡眠パターン、脳波などの信号を解析し、危機に陥る前に疲労の兆候を検出してくれます。
韓国では、看護師向けにAIを活用した個別化燃え尽き軽減プログラム「Nurse Healing Space」が開発されました。利用者に応じてAIがマインドフルネス、笑い療法、リフレクティブライティングなどを提案します。結果として、参加者のストレスと燃え尽き症候群が顕著に減少することが示されました。
参考:看護師燃え尽き症候群のための人工知能ベースのカスタマイズされたモバイル介入の開発:単一腕試験 |PMC
AIの感情分析により疲労やストレスを早期に察知できれば、共感疲労や燃え尽き症候群に陥る前の手立ても可能になります。
専門職の業務効率化にもAIを活用できる
メンタルヘルス支援職の業務効率化にもAIが効果的です。AIは文章要約やデータ分析が得意であり、カウンセリング記録の自動要約や業務上必要な書類作成などを効率化できます。事務作業が減ればケアの時間確保や、残業時間の減少などが期待できます。
アメリカにある複数の診療所(連邦認定の地域保健センターなど)では「Suki」 という医療用の音声 AI アシスタントを導入しています。AIの導入により、カルテ入力や書類作成などにかかる時間の大幅な削減に成功しました。
参考:AIまとめ:臨床文書、患者アクセス、サイバーセキュリティの新応用 |ヘルスケアITニュース
クライアント管理を効率化したい場合は、従来の表計算ツールや紙での管理では難しいパーソナライズした管理ができる「MetaMentor CRM」がおすすめです。
セッションの録音データをアップロードするだけで、高精度な音声認識による話者分離、文字起こし、要約までが自動で完了します。生成されたテキストを共有ノートに貼り付ければ、クライアントへの記録共有もスムーズです。

クライアント毎にセッションログを管理できるので、何をテーマとして扱っているのかなどの定性情報や、セッション時間や価格などの定量情報も一目で把握できます。
MetaMentor CRMには、クライアントのウェルビーイングの現状を可視化できるウェルビーイング診断も搭載されています。

気軽に始められるフリープランでも、クライアント管理は無制限、累計120分のセッション文字起こしをご利用可能です。セッションのAI要約も3回まで利用できますので、興味のある方は下記のリンクをご参照ください。
まとめ:AIをより専門的・網羅的なメンタルヘルスケアに活かそう

深刻なメンタルヘルス専門職の不足などの背景から、AIによるメンタルヘルスサービスが発展しつつあります。24時間対応やデータ分析などを比較的低コストで導入できる点が、AIの利点です。
今後、メンタルヘルスケアの質の確保や業務量の軽減を目指すには、AIと専門職の協働が重要なポイントです。AIと専門家それぞれの強みを活かしながらメンタルヘルスケアの質を高めていきましょう。
私たちやクライアントの心は、体の調子や周囲の環境によって日々揺れ動いています。「以前は効果的だったケアが、今回は合わない」と感じることがあるかもしれません。だからこそ、メンタルヘルスケアの品質向上には定期的な振り返りが必須です。
メタメンターのウェルビーイング診断なら、5分程度の診断で学術的根拠のあるデータが得られます。
無料のサポーター登録をしていただくと、クライアント専用の診断URLの発行が可能です。クライアントごとに診断結果を保存・共有できるので、継続的なサポートにも役立ちます。
ウェルビーイング診断は、医療機関でも使用されるPHQ-9(うつの評価)やGAD-7(不安症の評価)のエビデンスに基づく指標を用いて、メンタルリスクがあると判断される対象を一定の精度で予測できます。
診断結果を共有し、専門家によるケアの必要性を論理的に説明する際にも有用なウェルビーイング診断は、以下からお試しください。
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記事監修
ICF認定PCCコーチ/代表取締役社長 小泉 領雄南
2011年にGMOペイメントゲートウェイに入社。2016年、子会社の執行役員 経営企画室長に就任し、2020年の上場を経験。 早稲田大学MBA在学中にコーチングを本格的に学び、翌年メタメンターを設立。 国際コーチング連盟(ICF)が認定するPCCコーチ(500時間以上の豊富な実績が求められるICFの専門資格)として、MBAホルダーおよび上場企業の経営企画経験、そして元ICFジャパン運営委員としての知見を活かし、事業承継に関わる経営者・後継者向けコーチングを専門におこなうほか、コーチ・カウンセラー向けのウェルビーイング診断やCRMサービスの開発にも取り組む。






