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【論文まとめ】大学院医療教育でコーチングは学生成果を高めるか

記事掲載日:2026年2月10日 
最終更新日:2026年3月10日

📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Donaldsonら(2025年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。


医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士——。こうした医療専門職を目指す大学院生たちは、一般的な大学院生とは比べものにならないほど過酷な学習環境に置かれています。高度な専門知識を短期間で習得し、緊張感の高い臨床現場に出て、難関の国家試験や資格試験に合格しなければならない。そのプレッシャーは、メンタルヘルスや学業パフォーマンスに深刻な影響を与えることもあります。

そんな医療系大学院生を支援する手段として、近年注目されているのが「アカデミックコーチング」です。目標設定、自己省察、継続的な改善を重視するこのアプローチは、一般的なアドバイジングやメンタリングとは異なり、学習者自身の成長を引き出すことに特化しています。

しかし、アカデミックコーチングが本当に医療系大学院生の成果を高めるのか、どのような形で実施すれば効果的なのか——これらの問いに体系的に答えた研究はこれまで十分ではありませんでした。

今回紹介するのは、2025年に学術誌『Medical Education Online』に掲載された、Donaldsonらによる系統的スコーピングレビューです。医療・医学系大学院教育におけるアカデミックコーチング介入の効果を包括的に調査したこの研究は、338本の論文を精査し、最終的に11本の研究を詳細に分析しました。その結果は、コーチングの可能性と限界の両面を鮮やかに照らし出しています。

そもそも「アカデミックコーチング」とは何か——メンタリングや指導とどう違う?

「コーチング」と「メンタリング」は日常的に混同されがちな言葉です。論文の著者たちも、この概念的なあいまいさが研究の比較を難しくしている一因だと指摘しています。

この研究では、アカデミックコーチングを「継続的な成長と改善に焦点を当てた、双方向的・長期的・関係重視・学習者中心のプロセス」と定義しています。コーチは積極的な傾聴と効果的な質問を通じて、学生の自己調整学習と内省的実践を促します。

さらに論文では、コーチングの構成要素として以下の7つの概念を定義しています。目標設定(短期・長期の学術的・キャリア目標の確立)、スキル開発と認知的適応性(時間管理や批判的思考などの育成)、アカウンタビリティ(目標達成に向けた継続的なフォローアップ)、フィードバックと内省(建設的な振り返りの促進)、リソースナビゲーション(制度的・地域的支援リソースの活用支援)、モチベーションとサポート(レジリエンスと自信の醸成)、そして積極的な問題解決(潜在的な障壁への対処)です。

また、この研究はMAL(Master Adaptive Learner)フレームワークとの親和性も強調しています。MALとは、自己調整と適応的な専門知識の発達を重視する医学教育の理論モデルで、コーチングが目指す「学び続けられる学習者の育成」と方向性が一致しています。

どのように調べたか——11本の研究を徹底分析

この研究では、PubMed、PsycINFO、CINAHL、ERIC、Scopusという5つの主要な学術データベースを横断的に検索しました。2025年1月までに発表された英語論文を対象に、医療・医学系大学院プログラムに在籍する学生(医学、看護、理学療法、作業療法、薬学など)を対象としたアカデミックコーチングの研究を絞り込みました。

338本の論文が最初に抽出され、厳格な選定プロセスを経て最終的に11本が分析対象となりました。この過程はPRISMA(系統的レビューのための国際標準報告ガイドライン)に準拠して行われ、国際教育系統的レビューデータベース(IDESR)にも登録されています。

11本の研究はランダム化比較試験(RCT)が2本、準実験的研究が9本という構成でした。研究の質はJoanna Briggs Institute(JBI)の批判的評価ツールで測定され、各研究の信頼性が評価されています。分析にはPICO(対象・介入・比較・アウトカム)フレームワークが用いられ、研究間の比較を体系的に行っています。

対象となった学生は、医学生(初年度から卒業年次まで)、薬学生、理学療法学生、作業療法学生など多岐にわたりました。介入の形式も、グループセッションと個別セッションの組み合わせ、オンラインと対面の混合、短期集中型から在学全期間にわたる長期継続型まで、様々なアプローチが含まれています。

驚きの結果——コーチングは「メンタル面」に特に効く

分析の結果、アカデミックコーチングが最も一貫した効果を示したのは、学業成績そのものよりも、学生の精神的健康と主観的な体験の領域でした。

具体的には、ストレスの軽減、抑うつ・不安の改善、レジリエンス(困難への回復力)の向上、ライフスタイルバランスの改善といったポジティブな変化が複数の研究で確認されました。たとえば、医学生を対象にしたある研究では、コーチングプログラムへの参加者の94.9%がプロトコルを完遂し、参加者の100%が「何らかの価値があった」と回答しています。ストレス管理に関する自己効力感でも、データとして有意な改善が認められました。

また、別の研究では、学業に苦しむ医学生・研修医・フェローに対して教員によるコーチングを実施したところ、再試験の通過率が96.2%(医学生)という非常に高い数字を記録しました。コーチングが学業的な「救済」においても有効であることが示されています。

一方で、GPA(成績平均点)や試験スコアなどの客観的な学業成果への効果は、研究によって結果がまちまちでした。コーチングが学業成績を直接、数値として引き上げるという明確な証拠は、現時点では限定的であると言えます。

所属感や満足度についても注目すべき知見があります。理学療法の博士課程プログラムでは、91.7%の学生がコーチングを「効果的」または「非常に効果的」と評価し、84%が所属感を感じたと回答しました。長期的なコーチングプログラムを実施した別の研究では、「少なくとも一人の教員が自分のことを個人的にも専門的にも知っている」と感じる学生の割合が、コーチング導入前の61.1%からコーチング導入後の86.8%へと大幅に向上しています。

どんなコーチングが効果的か——設計と文脈のカギ

11本の研究を横断的に分析した結果、いくつかの重要な傾向が浮かび上がりました。

まず、個別セッションとグループセッションを組み合わせた形式が、多くの研究で効果的とされています。個別セッションは学生固有の課題や目標に集中できる点が評価され、グループセッションは仲間同士の学びや共感的なつながりを生む点で補完的な役割を果たしていました。

次に、コーチの背景が成果に影響することも示されています。プロのコーチが関わるプログラムは、ピアサポートや訓練を受けたスタッフが担当するプログラムと比較して、より良い結果をもたらす傾向がありました。ただし、教員がコーチ役を担う場合は、適切な準備と訓練が不可欠だと著者たちは強調しています。

また、対面とオンラインを比較すると、完全オンライン形式のコーチングは結果が一定せず、対面の関係性の持つ力が依然として重要であることが示唆されました。

さらに、コーチングの焦点領域も多様でした。医学生向けでは自己調整学習やストレス管理、エグゼクティブコーチングが中心だったのに対し、薬学・理学療法・作業療法の学生向けではキャリア計画や職業的バランス、所属感の向上が主なテーマとなっていました。こうした違いは、専門分野ごとに学生が直面する課題の性格が異なることを反映しています。

まとめ——「万能な型」はない。文脈に合わせた設計が成功のカギ

この研究が示す最も重要なメッセージは、「アカデミックコーチングには可能性があるが、一律の方法論は存在しない」という点です。

11本の研究を通じて、コーチングは医療系大学院生の精神的健康、所属感、満足度、そして特定の学業成果(とりわけ学業的救済の場面)において、一定の改善効果をもたらすことが示されました。特に長期的・継続的なコーチング関係は、学生が教員に個人的・専門的に認められているという感覚を高める上で有効でした。

しかし著者たちは、これらの成果の有効性は、学習者の具体的なニーズ、教育的な段階、そして制度的な文脈との整合性にかかっていると強調しています。医療系大学院生は認知的負荷が高く、感情的に消耗する臨床環境に置かれており、適応的な専門知識を必要とするため、一般の大学院生とは異なるより集中的・個別的・長期的なコーチングアプローチが求められる可能性があると指摘されています。

また、将来のコーチングプログラムはMAL(Master Adaptive Learner)フレームワークを意識して設計されるべきだという提言も示されています。このフレームワークに沿うことで、医療専門職教育の絶えず変化する要求に対応できる、柔軟で適応的な学習者を育てることが期待できます。

研究の限界としては、会議録や学位論文、いわゆる「グレー文献」が除外されたこと、標準化されたアセスメントツールが存在しないためプログラム間の比較が難しいこと、そして対象となった研究数が11本と限られることが挙げられています。著者たちは、今後の研究では長期的な効果の追跡、国際的な知見の蓄積、そして複雑なコーチングプロセスをより的確に捉えられる評価ツールの開発が必要だと述べています。

医療系大学院教育の現場において、アカデミックコーチングは「あれば嬉しいもの」ではなく、「適切に設計されれば学生の成長を支える重要な柱」となり得る——この研究はそのような可能性を示す一歩と言えるでしょう。

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参考文献
Donaldson M, McBride S, Wilhelm M, Parent-Nichols J, Thomas R, Scanlon E, Griswold D.(2025). Exploring the impact of academic coaching interventions on student outcomes in graduate healthcare and medical education: a systematic scoping review. Medical Education Online, 30(1), 2581671. DOI: 10.1080/10872981.2025.2581671

記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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