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【論文まとめ】作業療法におけるコーチングの効果と実態

記事掲載日:2026年3月18日 
最終更新日:2026年3月13日

📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Grahamら(2024年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。


「コーチングを受けたら、子どもとの関わり方が変わった」「目標を自分で決めることで、やる気が続くようになった」——こうした声が、医療・リハビリテーションの現場でも聞かれるようになってきました。

コーチングといえば、ビジネスや自己啓発の文脈で語られることが多いですが、近年は医療・福祉の世界でも急速に広がっています。とくに「作業療法(Occupational Therapy)」という分野では、2007年ごろからコーチングが中核的なスキルのひとつとして位置づけられてきました。

作業療法とは、病気・障がい・高齢などによって日常生活に困難を抱える人が、食事・入浴・仕事・育児といった「作業(日常の活動)」に再び参加できるよう支援する専門職です。リハビリテーションの一分野であり、日本でも病院・地域・学校などさまざまな場で活躍しています。

そのような作業療法の現場でコーチングはどのように使われているのか、どんな人に効果があるのか、どんな成果が得られているのか——これらを体系的に整理した大規模な調査論文が、2024年に発表されました。

オーストラリア・ニュージーランドの研究者グループが実施したこのスコーピングレビュー(広範な文献調査)は、2014年から2022年の間に発表された60本の研究論文を分析したものです。今回は、その主な内容をわかりやすくお伝えします。


この研究はどのように行われたのか——調査方法の概要

この論文は「スコーピングレビュー」と呼ばれる研究手法を用いています。特定のテーマについて発表された多数の先行研究を幅広く収集・整理し、現在の知識の全体像を地図のように描き出すのが目的です。

研究チームは、医療・心理・リハビリ関連の主要な学術データベース(CINAHL、Embase、MEDLINE、PsychINFO)を対象に文献を検索しました。「コーチング」「作業療法」「作業参加」といったキーワードを組み合わせ、最初に633件の文献を抽出。重複削除や適合基準による絞り込みを経て、最終的に60本の研究論文が詳細分析の対象となりました。

分析には複数の研究者が独立して取り組み、意見が分かれた場合はチームで話し合って結論を出すという手順が踏まれています。研究の質の評価には「MMAT(混合研究法評価ツール)」と呼ばれる国際的な基準が使われており、信頼性の高い分析手法が採用されています。

分析の対象となった60本の研究には、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる最も信頼度の高い研究デザインが8本含まれており、定量・定性・混合手法の研究がバランスよく含まれていました。研究が実施された国は多岐にわたり、日本を含むアジア地域の研究も一部含まれています。


誰に、どこで、何のためにコーチングが使われているのか

分析の結果、作業療法でのコーチングは「子どもを持つ親・介護者」を対象とした研究が最も多く、全体の大きな割合を占めていることがわかりました。

とくに多かったのは、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つ親(11件)、脳性麻痺の子どもを持つ親(7件)、発達障がい全般の混合集団(13件)を対象とした研究です。これらの研究では、作業療法士が子どもの親にコーチングを提供し、親自身が子どもを支援する力を高めることを目指していました。

一方、成人を対象とした研究も一定数あり、脳卒中(7件)、脊髄損傷(2件)、多発性硬化症(1件)、ハンチントン病(1件)などの神経系の疾患を持つ方への適用が報告されています。また、職場での障がい支援として「ジョブ・クラフティング」と呼ばれるコーチング手法を用いた研究も含まれており、コーチングが医療だけでなく就労支援にも広がりを見せていることが示されています。

実施場所としては、地域コミュニティや自宅での提供が最も多く、次いでコミュニティ型クリニックが続きました。急性期病院や職場を舞台にした研究は少数にとどまっています。これは、コーチングが「専門家の指示に従う」というより「本人・家族が自ら考えて行動する」ことを重視するため、生活の場に近い環境のほうが適していると考えられているためです。

また、テレヘルス(遠隔支援)を活用したコーチングの研究が10件に上っており、とくにコロナ禍以降に急増したことが示されています。オンラインでもコーチングの効果が維持されることが、複数の研究から示唆されています。


どんな成果が得られているのか——データで示されたコーチングの効果

最も多く測定されていた成果は「作業パフォーマンス(日常の活動への取り組み能力)」と「目標達成度」でした。

全29件の効果検証研究のうち、27件においてコーチングが目標達成や作業パフォーマンスの向上に有効であることが示されました。効果の大きさはばらつきがあるものの、高品質な研究においても中程度から大きな効果が確認されています。

最も頻繁に使われた測定ツールは「カナダ作業パフォーマンス測定(COPM)」という尺度で、28件の研究で使用されていました。これはクライアント自身が「自分にとって大切な活動」を選び、その遂行度と満足度を評価するもので、本人の主観的な変化を測ることができます。次いで「目標達成スケーリング(GAS)」が13件で使われており、個人の目標にどれだけ近づいたかを数値化する手法です。

自己効力感(自分はできるという感覚)の向上も多くの研究で確認されており、7件で親の自己効力感、6件でクライアント本人の自己効力感の向上が報告されています。これはコーチングの「仕組み」として重要な意味を持ちます。コーチングは目標達成そのものを直接サポートするのではなく、「自分にはできる」という感覚を育てることによって、行動変容を促すと考えられているからです。

一方で、日常生活への参加(学校行事への出席、地域活動への参加など)の維持・向上を個別目標を超えた形で測定した研究は少なく、長期的な成果については十分なエビデンスが得られていないことも指摘されています。

また、驚くべき点として、分析対象の研究のうち介入の「忠実度(フィデリティ)」を測定していたものはわずか24%(29件中7件)にすぎなかったという事実があります。「忠実度」とはコーチングが意図したとおりに実施されたかどうかを確認する指標であり、これが測定されていなければ、「本当にコーチングとして実施されたか」が不明なまま効果だけが報告されることになります。研究の解釈に制限をもたらす大きな課題です。


どんなコーチングが使われているのか——介入の多様性と共通点

今回の分析で確認されたコーチング介入は、名前のついたものだけで27種類に上りました。その中で最も研究が進んでいたのは「作業パフォーマンス・コーチング(OPC)」およびその派生型で、全27介入のうち16件(約59%)を占めていました。

OPCは目標の協働設定・問題解決・行動計画という3ステップを基本とし、クライアント自身が主導する形で進められます。脳卒中版(OPC-Stroke)、テレリハビリ版、多発性硬化症向けウェブサイト連動版など、対象や文脈に応じた多様なバリエーションが開発されています。

OPC以外では、小児リハビリ向けの「ソリューション・フォーカスト・コーチング(SFC-Peds)」(3件)、「作業基盤コーチング(OBC)」(3件)などが研究されていました。

コーチング介入に共通して見られた要素は、①クライアントと協働して目標を設定すること、②解決策を一緒に考えること、③クライアントが主体的に行動計画を立てることの3点でした。これらの要素は、コーチングが「専門家が答えを教える」ものではなく、「本人が自分で気づき、動けるよう支援する」ものであることを示しています。

一方、理論的な基盤の明示という点では課題が残っています。多くの介入がどのような理論に基づいて設計されているかを明示しておらず、「なぜ効果があるのか」のメカニズムが不明なまま実施されているケースが少なくありませんでした。明示されていた理論としては、「自己決定理論(SDT)」「ポジティブ心理学」「社会生態学モデル」「成人学習理論」などが挙げられています。

セッションの頻度・期間も研究によって大きく異なっており、セッション数は2回から16回、期間は6〜12週間、頻度は週1〜隔週が一般的でした。この幅広い多様性は、コーチングが柔軟に対応できる介入であることを示す一方、研究間の比較を難しくする要因にもなっています。


まとめ——コーチングは作業療法の「核」になりつつある

この論文の分析が示す最も大きなメッセージは、「作業療法におけるコーチングの研究は急速に拡大しており、一定の効果がデータで確認されてきた」という点です。特に、子どもを持つ親や介護者を対象としたコーチングでは、複数のランダム化比較試験によって目標達成・作業パフォーマンス・自己効力感の向上が確認されています。

著者らが強調する実践的な示唆は以下の点です。

第一に、「自律性を支援するコミュニケーション」がコーチングの核心であるという点です。作業療法士がコーチとして関わるとき、専門家として答えを提供するのではなく、クライアントが自ら考え行動する力を引き出す役割へとシフトすることが求められています。

第二に、コーチング介入の理論的根拠を明確に説明することの重要性です。介入の方法・仕組み・成果を一貫した理論で説明することで、研究の再現性が高まり、臨床への翻訳も容易になります。著者らは特に「自己決定理論」との親和性が高いことを指摘しており、今後の研究でSDTの要素(自律性・有能感・関係性)を成果指標として組み込むことを推奨しています。

第三に、介入の忠実度の測定が課題として残っているという点です。コーチングが「本当にコーチングとして実施されたか」を確認する仕組みがなければ、得られた成果がコーチングによるものかどうかを判断できません。今後の研究では忠実度の測定が不可欠です。

また、論文の限界として、英語以外の文献や作業療法士以外が実施したコーチングの研究は除外されているため、文化的・職種横断的な視点が欠けている可能性があります。また、コーチング手法の説明がない研究も除外されているため、実際の普及状況はこの分析より広いと考えられます。

著者らは、コーチングの言語が作業療法の現場で急速に広まりつつある一方、理論的根拠・方法論・成果指標の一貫性を確保することが、今後の研究と実践の質向上の鍵であると結論づけています。

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参考文献
Graham, F., Kessler, D., Nott, M., Bernie, C., Kanagasabai, P., & Barthow, C. A.(2024). A scoping review of coaching in occupational therapy: Mapping methods, populations and outcomes. Australian Occupational Therapy Journal, 71(6), 1106–1130. DOI: 10.1111/1440-1630.12991

記事監修

WELLBEING MAGAZINE編集部

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