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📄 この記事は学術論文の紹介記事です。
本記事は、Ziakaら(2025年)による査読済み学術論文の内容を一般向けにわかりやすく要約・紹介したものです。記事内の情報はすべて論文に基づいており、メタメンター独自の主張・見解は含みません。詳細は末尾の参考文献よりご確認ください。
「最近、仕事のストレスがひどくて、眠れない夜が続いている」「職場でのプレッシャーが体や心に影響しているのはわかっているけど、何から手をつければいいのかわからない」——そんな悩みを抱えているビジネスパーソンは、決して少なくありません。
現代の職場では、業務量の増加、締め切りのプレッシャー、人間関係の摩擦など、さまざまなストレス要因が重なり合っています。世界保健機関(WHO)は、職場を「健康促進の場」として活用することの重要性を強調しており、単に有害な環境をなくすだけでなく、従業員が積極的に健康を維持・向上できる環境を整えることが求められています。
しかし、「ストレス対策が大切だ」とわかっていても、実際に職場でどんな介入が効果的なのかを科学的に検証した研究は、まだ多くありません。特に、ランダム化比較試験(参加者をくじ引きのようにランダムにグループ分けして公平に効果を測る、信頼性の高い研究デザイン)を用いた職場での研究は限られています。
今回紹介するのは、ギリシャのアテネで実施された職場向けストレス管理・ヘルスコーチング介入の効果を検証したパイロット研究です。わずか8週間のプログラムで、参加したオフィスワーカーに何が起きたのか——その結果は、忙しいビジネスパーソンにとって、希望を感じさせるものでした。
研究の概要:38人のオフィス社員を対象にした8週間プログラム
この研究はギリシャのアテネに本拠を置く企業「P. Petropoulos SA」のオフィス社員を対象に実施されました。全126人に参加を呼びかけ、最終的に38名が研究に参加しました。参加者は、コーチングプログラムを受ける「介入グループ(20名)」と、最初の説明だけを受けて待機する「対照グループ(18名)」にランダムに振り分けられました。
参加者の平均年齢は46.7歳で、55%が男性、約55%が過体重でした。ほとんどが既婚者で高学歴、非喫煙者という構成でした。なお、介入グループの平均年齢(42.9歳)は対照グループ(50.8歳)よりやや低く、これが研究の限界の一つとして著者たちも指摘しています。
介入プログラムは週1回・50〜70分のセッションを8週間にわたって実施しました。内容は多岐にわたり、ストレスの仕組みと影響についての講義から始まり、栄養・運動・睡眠に関する健康的なライフスタイルの指導、横隔膜呼吸・漸進的筋弛緩法・誘導イメージ法などのリラクゼーション技法のトレーニング、思考のクセを修正する認知再構成の練習、感謝日記・心配事を止める技法、そして自己認識・コミュニケーション・境界線設定・レジリエンス(回復力)強化といったテーマが含まれていました。
参加者はセッション期間中、毎週配布される「週間日記」に自分の行動・目標・進捗を記録しました。また、スマートフォンアプリ「Viber」のグループチャットを通じて、研究者が日々サポート・励まし・リマインダーを行いました。さらに、週末には自然の中でのハイキングや食事会といった自発的な課外活動も設けられ、チームとしての一体感や社会的なサポートを高める工夫がなされていました。
効果の測定には、ストレスの感じやすさ、健康的な生活習慣と自己管理の度合い、睡眠の質、自己効力感(自分にはできるという自信)、自尊心、主観的幸福感という6つの側面を、それぞれ信頼性の高い心理測定ツールを用いて評価しました。
驚きの結果:たった8週間でストレスが減り、生活習慣が改善
8週間後、介入グループと対照グループを比べると、いくつかの指標で明確な差が生じていました。
まず、ストレスの感じやすさを測る指標(PSS-14)では、介入グループのスコアが平均25.4から21.4に低下し、対照グループの26.3と比べて統計的に意味のある差が確認されました。つまり、介入グループの参加者は、以前より「生活がストレスだらけ」と感じにくくなったのです。
健康的な生活習慣と自己管理の度合いを測る指標(HLPCQ)でも、介入グループのスコアが63.1から66.3に上昇し、介入前後の比較でも統計的に有意な改善が確認されました。特に顕著だったのは以下の2つのサブスケールです。
「デイリールーティン(食事・睡眠の規則性)」では、介入グループで統計的に強い改善が確認されました。つまり、決まった時間に食事をとる、規則正しく眠るという生活習慣が、8週間でしっかり身についていったのです。
「社会的・精神的バランス」でも同様に大きな改善が見られました。これは、人と交流しようとする意欲が高まり、余暇や個人の時間をうまくコントロールし、ポジティブな思考やストレスへの認知的対処が向上したことを示しています。
また、自己効力感(GSES)と主観的な幸福感(SHS)についても、介入グループが対照グループを上回る結果となりました。一方で、睡眠の質(PSQI)や自尊心(SES)については、介入後に改善の傾向は見られたものの、統計的に確認できるほどの差は生じませんでした。
著者らは、これらの数値データに加えて、各セッションでの参加者の反応(定性的データ)についても言及しています。参加者たちは、食生活や運動・睡眠に関する知識が不足していたことへの気づき、果物の摂取量や身体活動量の増加、リラクゼーション技法を実践したときの手応え、人間関係における自己表現の改善などを報告したとのことです。
なぜ効果が出たのか:マルチコンポーネント介入とコーチングの組み合わせ
著者たちは、今回の介入が「単一のアプローチ」ではなく、複数の要素を組み合わせた「マルチコンポーネント介入」であったことが効果の鍵だと考察しています。
先行研究では、ストレス管理単独や肥満対策単独の介入と比べて、ライフスタイル全般(ストレス管理・マインドフルネス・運動・食事・アルコール・睡眠など)を包括的に扱う介入の方が、より高い効果をあげることが示されています。今回の研究もこの考え方に沿った設計となっていました。
また、コーチングの手法を取り入れた点も重要です。著者らは、「単に情報を提供するだけでは行動は変わらない」というWHOの見解を引用し、行動変容を促すためには心理的な動機づけや継続的なサポートが不可欠であると強調しています。今回の介入では、研究者が毎日のチャットで参加者を励まし、日記を通じて振り返りを促し、課外活動でチームの絆を深めるという、コーチングの本質である「伴走型支援」が実践されていました。
さらに、認知行動療法的なアプローチ(認知再構成・心配事を止める技法)や感謝日記の活用も、参加者が自分のストレスパターンに気づき、よりポジティブな視点を持てるようになる一助となったと考えられています。
加えて、ハイキングや食事会などの「自然・運動・社会交流」を組み合わせた課外活動が、参加者のモチベーション維持や職場での社会的サポートの感覚を高めることに貢献したと著者らは述べています。
研究のまとめ:職場コーチングの可能性と今後の課題
本研究は、職場でのわずか8週間のストレス管理・ヘルスコーチング介入が、参加者のストレス感、健康的な生活習慣、自己管理感覚を改善させる可能性を示しました。特に、食事・睡眠の規則性と社会的・精神的バランスの向上は、統計的に強い支持が得られた知見です。
著者らはこの結果から、「プライマリケアの医療専門家(かかりつけ医や産業医など)がヘルスコーチングとリラクゼーション技法を習得すること」の重要性を強調しています。慢性疾患の予防や職場のウェルビーイング向上において、医師や産業保健スタッフがコーチ的な役割を担うことが、これからの医療・職場健康管理の方向性の一つであると提唱しています。
一方で、著者たちは研究の限界についても率直に述べています。まず、サンプルサイズが38名と小さく、結果の一般化には慎重さが求められます。また、アウトカムの測定がすべて自己申告式であるため、「研究に参加しているという意識」や「良い回答をしようとする心理」が結果に影響した可能性があります。介入グループと対照グループで平均年齢に差があった点も、解釈に注意が必要です。さらに、フォローアップ期間が設けられておらず、プログラム終了後に効果が持続するかどうかは確認されていません。
著者たちは今後の研究として、より大きなサンプルサイズ、多様な測定ツールの活用、そして中長期的なフォローアップを組み込んだ研究が必要だと結論づけています。また、個人レベルのアプローチだけでなく、組織レベルのストレス介入との組み合わせについても検討が求められると述べています。
職場でのウェルビーイングは、個人の努力だけでも、組織の仕組み変更だけでも実現しにくい複雑なテーマです。本研究が示すのは、科学的な知識と実践的なコーチングを組み合わせた「伴走型支援」が、その第一歩を踏み出す力を従業員に与えうるということです。
研究が示すように、コーチングやカウンセリングの効果を最大化するには、科学的な知見を実践に落とし込む仕組みが重要です。メタメンターでは、コーチ・カウンセラーの皆さまが現場で即日活用できるツールを無料で提供しています。ぜひご活用ください。
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Ziaka, D., Tigani, X., Kanaka-Gantenbein, C., & Alexopoulos, E.C. (2025). A Stress Management and Health Coaching Intervention to Empower Office Employees to Better Control Daily Stressors and Adopt Healthy Routines. International Journal of Environmental Research and Public Health, 22, 548. DOI: 10.3390/ijerph22040548
記事監修
WELLBEING MAGAZINE編集部
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