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成人発達理論とは?ロバート・キーガンの成長5段階と成長を促す実践方法

記事掲載日:2025年12月21日 
最終更新日:2025年12月21日

ロバート・キーガンの成人発達理論は、私たちが意思決定や対人関係をどのように受け止め、判断し、どのように変化していくのかを示した内面の成長段階の理論です。各段階の特徴を知ると、行動や悩みの背景がつかみやすくなるメリットがあります。

しかし考え方のパターンやクセを理解しないまま努力を続けても、思考の前提が変わらなければ同じ課題を繰り返しかねません。

本記事ではキーガン氏の5つの発達段階と、自分の現在地の見立て方、成長につなげるヒントを紹介します。自分自身の理解を深めたい方はもちろん、部下やクライアントを支援する立場の方にも役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

成長を考えるうえでは、まず今の心身がどのような状態にあるのかを客観的にとらえることが欠かせません。

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成人発達理論とは思考や価値観の成熟を段階的に示した理論

成人発達理論とは、「大人になってからも人の内面は発達し続ける」という前提に立ち、思考の枠組みや価値観がどのように高度化していくのかを段階的に示す理論の総称です。

成人の発達を扱う理論は一つではなく、さまざまな研究者がそれぞれ異なる側面に注目してきました。例えば、ローレンス・コールバーグは倫理の発達、ジェームズ・ファウラーは信仰の発達、ジェーン・ローヴィンガーは認知の発達に焦点を当てています。

このように自我・認知・倫理・信仰など、人間の内面の多様な側面をテーマにした理論が存在しています。

そのなかでも近年、ビジネスや教育の分野で注目されているのが、ハーバード大学の心理学者ロバート・キーガンが提唱した構成主義的発達理論(Constructive Developmental Theory)です。

この理論は、物事をどう解釈しているのかという心のしくみに注目し、自分と他者・世界をどのように理解しているのかを明らかにしようとするものです。行動の背後にある受け取り方や自分のとらえ方が、時間とともにどのように変化していくのかを扱います。

複雑な問題が多い現代社会では、自分がどのような視点で世界を理解しているのかを知ると、仕事・人間関係・キャリアで感じる行き詰まりを解消するヒントになるといえます。

そのため、成人発達理論はリーダーシップ開発、マネジメント、コーチング、教育など、幅広い領域で活用されているのが現状です。

参考:日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証|慶應義塾大学

成人発達理論の構造はどのようになっているのでしょうか?次の章では、成長の変化の広がり・深まりの2軸と、それを支える知性の発達3段階を紹介します。

成人発達理論の2つの基本構造

成人発達理論を理解するポイントは、大きく以下の2つです。

  1. 成長の2つの軸
  2. 知性の3段階

知識やスキルを増やす成長と、ものの見方そのものの器を広げる成長は、実は明確に区別されます。この2つの成長の軸と、複雑な状況に対応できる知性の3段階という基本的な構造をご覧ください。

成長の2つの軸

成人発達理論を理解するうえで重要なのが、成長には2つの種類があるという視点です。以下の表は、既存の能力や知識を深める水平的成長と、物事のとらえ方や思考の枠組み自体を広げる垂直的成長という、成長の2つの軸を示しています。

水平的成長 既存の能力や知識を向上させることに焦点を当てた成長
・新しい資格を取る
・業務スキルを磨く
・業務範囲が広がる など
垂直的成長 ・新しい視点や価値観を獲得し、より高いレベルの理解や認識を得る成長
・知識を詰め込むのではなく、物事を受け止める器(思考の枠組み)そのものを大きくする変化

例えば、ビジネスにおける真の成長やリーダーシップの発達には、知識やスキルを増やす水平的成長だけでなく、思考の質を高める垂直的成長が必要です。

知性の3段階

成人発達理論では知性の発達を次の3つの段階で説明し、段階が上がるほど、複雑な状況に対応できる認知構造が育ちます。

第一段階:環境順応型知性 ・周囲の期待や規則に適応して行動する段階
・環境に合わせる柔軟さはあるものの、自分の価値観が未形成で、指示待ちになりやすい特徴がある
第二段階:自己主導型知性 ・外部からの指示や制約に左右されず、自己の内なる動機や目標にしたがって行動できる段階
・ただし、自分の枠組みが強く、異なる価値観を扱う柔軟性には限界がある
​​第三段階:自己変容型知性 ・自分の価値・判断基準を確立しながらも、それらを絶対視せず、必要に応じて作り変えていける段階
・周りの意見や環境の変化に柔軟に対応し、状況に応じて自らの考えや戦略を修正できる

なおこの3段階は、後述するロバート・キーガンの成人発達理論における段階3(社会的自我)、段階4(自己主導の心)、段階5(自己変容する心)に相当し、成人の発達を理解するうえで重要な位置付けとなります。

成人の知性の発達段階を理解することで、個人や組織の課題解決に役立てられます。では、なぜ成人発達理論が、ビジネスや人材育成の現場で注目されているのでしょうか。次の章で主な3つの理由を紹介します。

成人発達理論が注目される3つの理由

成人発達理論が注目される理由は、大きく以下の3つです。

  1. 仕事や人間関係で起きる認知の限界に気づける
  2. キャリアの停滞や人間関係の悩みの原因が解明できる
  3. コーチング・マネジメントにも活用できる

日々の行き詰まりを能力の問題だけでなく発達段階の観点からとらえ直すことで、悩みの背景や支援のヒント発見につながります。

理由1.仕事や人間関係で起きる認知の限界に気づける

成人発達理論は「なぜうまくいかないか」を構造的に理解できるため、職場での衝突、コミュニケーションのすれ違いの原因を説明するのに役立ちます。

成人発達理論は、認知の限界がどのような仕組みで起きているのかを理論的に整理し、個人が次の成長ステップに進むための道筋を示す理論です。

そのため「知識やスキルがあるのに、なぜか仕事や人間関係がうまくいかない」「同じ問題に何度もぶつかる」という生きづらさの原因は、能力不足ではなくものの見方の枠組みが古い点にある、と考えられています。

ロバート・キーガンが、見方の枠組みを「心のOS(オペレーティングシステム)」という言葉で表現するように、その人を取り巻く世界や自分自身をどのように理解しているかの根本的な構造に着目している点が特徴です。

現代の複雑な環境では、認知の限界を理解することが次の成長へとつながるステップとなります。

理由2.キャリアの停滞や人間関係の悩みの原因が解明できる

成人発達理論を知ると、自分の悩みの本質が自分と他者を区別する枠組みにあるとわかり、悩みを成長課題としてとらえ直せます。

多くの成人が、無意識のうちに他者の期待や所属組織の価値観を自分のものとして取り込んでしまいがちです。この状態では、「自分はどうしたいか」という自分軸での意思決定ができず、キャリアの停滞や疲弊につながるおそれがあります。

生きづらさやモヤモヤといった抽象的な問題を、発達段階という客観的なフレームワークで自己理解につなげられる点が、成人発達理論が注目される理由の一つです。

理由3.コーチング・マネジメントにも活用できる広がり

成人発達理論を理解すると、部下やクライアントのものの見方の段階を客観的に把握できるようになり、その人に合った支援をおこなえます。

例えば、「誰かに認められたい」と考える人に「あなたの夢は何ですか?」と聞いても答えは出にくい場合があります。なぜなら、その方はまだ「自分の内なる価値観(自分軸)」だけで物事を決める段階にはおらず、周囲との関係性の中で自分をとらえている時期だからです。その場合は、周囲からどのような期待を受けているのかを整理する支援のほうが有効です。

成人発達理論は、相手の認知そのものを広げるための本質的な成長を促すマネジメントやコーチングに応用される場面が広がっています。複雑な現代社会において、経営層やマネージャーが多様な部下を育成するための客観的な評価軸としても重要視されています。

続いて、キーガン氏が示した「5つの発達段階」の概要を確認し、世界の見え方がどのように変化していくのかをみていきましょう。

ロバート・キーガンの5つの発達段階

キーガン氏は、人の成長を世界の見え方がどのように変化するかとして5つの段階にまとめました。

下記は、「ロバート・キーガンの成人発達理論」(ロバート・キーガン著)を参考に、人生において経験する5つの代表的な発達段階をまとめたものです。

【主な発達段階】

段階 世界の見え方 主体(とらわれているもの) 客体(扱えるようになるもの)
1 衝動の世界 衝動 ほぼなし
2 自分の欲求中心 自分の欲求・ルール 衝動
3 他者との関係中心 他者の期待・関係性 自分の欲求
4 自分の価値観中心 自分の価値観・信念 他者の期待
5 枠組みを超えて統合 自分の価値観すら超える視点 自分の価値観・システム

成長とは新しいスキルの追加ではなく、自分がとらわれていたものを客体化(一歩外から見られるようになる)ことです。

人が無意識にとらわれている主体を、一歩外側から扱える客体に変える5つの認知構造の変化を、具体的な行動例とともに深掘りします。ご自身が今、どの段階で世界を理解しているかチェックしてみてください。

段階1.衝動・感覚の世界(幼児期)

この段階では感情や衝動に支配されており、自分と周りのもの(外界)の区別があまりついていない段階です。衝動が世界そのものであり、欲望が満たされないとすぐに泣いたり怒ったりします。

【世界の見え方】
・その瞬間の気持ち・衝動が自分のすべて
・目の前で起きたことに反応して動く
・他者の存在はまだ安定して認識できない【主体になっているもの】
・感覚・衝動

【客体にできていないもの】
・感情をコントロールすること、他者との関係

※成人は通常この段階を卒業している

キーガン氏はこの段階を、感覚・衝動が主体となっており、欲求や感覚が自分自身と切り離せない状態と説明しています。

段階2.道具的(手段的)な自我(7歳頃〜思春期、一部の成人)

自分の欲求や感情が中心で、私という独立した意識は芽生えますが、他者の視点や感情を十分には理解できない段階です。ルールは自分の目的を達成するための道具、または罰を避けるための手段としてとらえられます。

【世界の見え方】
・自分の欲求・利益・ルールが最優先
・他者の気持ちは理解しはじめるが、まだ自分基準から離れない

【主体になっているもの】
・自分の欲求・ルール・考え
・「相手がこうしてくれるから、私はこうする」などの交換的発想

【客体にできていないもの】
・感情をコントロールすること
・他者との関係

ひとまとまりの行動や性質を理解し始める段階で、自分の気持ちが世界の中心で、他者視点はまだ限定的です。

段階3.社会的な自我(思春期後半〜、大多数の成人)

他者の期待や社会・所属集団の価値観を自分の基準として行動し、役割を通じて自己を定義する段階です。キーガン氏の研究によると、大多数の成人がこの段階に留まるとされています。

【世界の見え方】
・自分は他者との関係のなかで存在する
・他者からどう見られるかがとても重要
・集団・コミュニティ・価値観に自分を合わせる

【主体】
・他者との関係・周囲の価値観・所属集団の期待
・己イメージ(良い人でいたいなど)

【客体にできるようになるもの】
・自分の欲求・考えを自分の一部として扱える

【具体例】
・自分の意見より、みんながどう思うかを優先して判断する
・上司や同僚の期待を裏切らないようにスケジュールを詰め込み、断れずに抱え込みがち
・自分のやりたいことがあっても、「迷惑をかけるのでは」「変に思われるのでは」と遠慮して行動に移せない
・評価の低下を強くおそれ、フィードバックを人格への評価として受け取りやすい
・意思決定の際、「周りはどう思うだろうか?」という外部からの視点を重視する

「嫌われたくない」「集団の調和を保ちたい」という動機が強く、組織で最も多い発達段階です。

段階4.自己主導の心(一部の成人)

キーガン氏の理論における、自律(セルフ・オーサリング)の状態を指します。自分自身の明確な価値基準、信念、判断軸を持ち、他者の意見や期待に影響されすぎず、主体的に意思決定ができる段階です。

【世界の見え方】
・自分の内側の価値観・理念・信念を軸に判断する
・他者の期待に合わせるだけの自分から卒業
・自分のルールやシステムを持つ

【主体】
・自分の信念体系・価値観・原則
・自分で作り上げたシステム

【客体にできるようになるもの】
・他者の期待・関係性
・周囲がどう思うか」を距離をもって扱える

【具体例】
・他者に合わせるのではなく、説明した上で建設的に意見を述べられる
・自分のミッション・価値観に沿ってキャリアや人生を決める
・困難な問題にも、冷静に向き合って解決策を探せる
・必要に応じて自然に断れる

段階4にいる人は、自分の軸で生きる主体的な大人といえます。マネージャー・リーダーに多い傾向がありますが、誰もが到達できるわけではありません。

段階5.自己変容する心(ごく一部の中年期以降の成人)

キーガン氏が理論で定義する、最も成熟した段階です。自分の確立した価値基準(段階4の主体)すらも客観視し、状況や文脈に応じて自分の枠組みを柔軟に更新していきます。

【世界の見え方】
・自分が作った価値観・システムですらひとつの見方に過ぎないと理解する
・複数の視点・価値を統合しながら、対話的に新しい意味をつくり続ける
・自分の枠組みを超えることが可能

【主体】
・絶えず変化・再構築される関係そのもの
・複数の自己や視点を統合する能力

【客体にできるようになるもの】
・自分の価値観・システム・アイデンティティすら客体化できる

【具体例】
・対立する意見同士の橋渡し役ができる
・権威や制度に依存せず、背景の構造を読み解く
・社会課題などの正解がない問題を扱う力がある
・長期的な価値創造(新しい組織づくり、思想形成など)に携わる

矛盾を抱えたまま前へ進む、思想家・社会改革者などに多いレベルです。

5つの段階の全体像を押さえると、「自分はいまどこにいるのか」「ここからどう成長していけるのか」という問いが自然に生まれてきます。

次の章では、まず個人として自分の発達段階を理解し、日々の仕事や人生の選択に生かすための3つの方法を紹介します。

【個人】自分の発達段階を知り、成長につなげる3つの方法

自分の発達段階を知り、成長につなげる主な3つの方法は以下です。

  1. 自分の段階を見立てるセルフチェックをしてみる
  2. 今の段階を良し悪しで判断せず受け入れる
  3. 成長を阻む主体化を特定する

キーガン理論ではどの段階が良い・悪いかではなく、いま自分がどのような枠組みで世界を理解しているか、を知ることが出発点とされています。どのような意味なのかみていきましょう。

方法1.自分の段階を見立てるセルフチェックをしてみる

キーガン理論では、段階は診断ではなく、今のものの見方のクセを理解するための目安として扱います。

例えば下記の問いに今の自分がよく当てはまるものをチェックしていくと、おおよその段階の目安になるのでぜひ試してみてください。

【第3段階(社会的マインド)のサイン】

  • 他者の期待を満たすことを優先しがち
  • 人間関係の調和が最重要
  • 相手にどう思われるかで行動が決まる場合がある
  • 自分の意見が言えない時がある
  • 「みんながOKなら自分もOK」

→ 他者との関係が主体になっている状態

【第4段階(自己主導のマインド)のサイン】

  • 自分の価値観・信念があり、それに基づき判断する
  • 他者の期待と、自分の判断を区別できる
  • 困難に対して主体的に意思決定する
  • 自分の軸を持って行動する
  • 「私はこう考える」が明確

→ 自分の価値観や原則が主体となっている状態

【第5段階(自己変容するマインド)のサイン】

  • 自分の価値観が絶対的ではなくひとつの視点とわかる
  • 異なる立場や価値観を統合し、新しい意味を作れる
  • 自分のアイデンティティも変化し続けると理解している
  • 対話によって互いに成長する関係性をつくれる
  • どちらが正しいかではなく何が生まれるかを問う

→ 自分の価値観すら客体化できる段階

方法2.今の段階を良し悪しで判断せず受け入れる

次に、発達段階は優劣ではなく、その人が環境に適応してきた一貫した意味づけのしかたととらえる方法です。成長は「次に行かなければ」という焦りから始めるより、今自分がどのような前提で世界を見ているかを丁寧に理解するほうが進みやすいといえます。

ここでいう受け入れるとは現状維持の肯定ではありません。まずは現在地を正確に把握し、どのような場面で力を発揮し、どのような場面で詰まりやすいかを可視化することが大切です。

自己理解を深める際には、主観だけでは把握しきれない認知のクセや強み・弱みを、客観的なデータとして示すツールの活用も一つの方法です。

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方法3.成長を阻む主体化を特定する

成長していくためには、何が今の自分を支配しているか(主体化されているか)を知るのも一つの方法です。主体化とは、それが正しいかどうかを検討する前に、無意識に判断や行動が決まってしまう状態を指します。

例えば、自分がいつも考える前に同じ反応をしていないか調べるために、下記のような問いかけをしてみましょう。

【無意識の判断パターンに気づくための問い】
・他者の期待?(嫌われたくない・期待を裏切れない)
・自分の価値観?(筋が通っていないと許せない・成果が最優先)
・役割?(上司なんだから弱音は言えない・親なんだから我慢すべき)
・怒りや不安などの感情?(怒りで言い方が強くなる・確認が極端に多くなる)
・完璧でいなければならないという信念?(失敗=価値が下がる)

問いかけの目的は、相手の性格や行動を責めることではありません。反射的な反応の原因(支配している前提)を特定することで、次からは意識的に異なる行動を選択できるように促し、個人の成長へとつなげます。

この理論を部下やクライアントなど他者を支援する場面に応用すると、関わり方の選択肢を広げられます。次の章では、対人支援で理論をどのように活かせるかを紹介しますのでご覧ください。

【対人支援】理論を活かしてサポートする2つの方法

最後に、支援の質を高めるための2つの基本的な視点を紹介します。

  1. 部下やクライアントの認知の限界に寄り添う
  2. 本質的な成長課題に合わせて支援する

フィードバックを攻撃と感じて反発する部下のような、認知の限界に直面した相手への適切な寄り添い方と、発達段階に合わせた本質的な成長を促すコーチングへの応用方法を紹介します。

方法1.部下やクライアントの認知の限界に寄り添う

キーガンの理論を理解することで、部下やクライアントの発言や行動の背後にあるものの見方(認知の枠組み)に寄り添えます。

彼らが感じる生きづらさや、行動に結びつかない課題の背景には、能力や意欲の問題ではなく、その段階特有の認知の限界が影響しています。どのような場面で表れやすいのか、次の例をご確認ください。

【段階特有の認知の限界が影響している例】
例:上司からのフィードバックを攻撃と感じて反発する
→ 内容以前に、評価=自分の価値のような前提が強く働いている可能性がある
例:周囲の期待を優先しすぎて、決められない・断れない
→ 期待に応えることが自分の中心にあり、選択肢が狭くなっている可能性がある

ここでの寄り添いは、同調ではありません。相手が反射的に同じ反応をしてしまう背景を理解したうえで、必要な関わり方(問いの粒度、支援の順番、言葉の選び方)を調整できる点が特徴です。

成人発達理論に限らず、複数の理論を組み合わせて理解するとクライアント支援の精度は高まります。クライアントの行動変容や動機づけを扱う理論と照らし合わせると、「いま何が支援の課題か」を、より具体的に見立てることが可能です。

コーチングで活用できる主要理論やそのポイント、実務での使い方を紹介した記事もありますので、視野を広げたい方は下記の記事も参考にしてみてください。

コーチが学ぶべき理論11選!学ぶべき理由や実践に活かすポイントを紹介

コーチが理論を学ぶと経験や感覚に頼らず、支援の質と再現性の向上につながります。本記事では、そのメリットと、実践に役立つ11の理論を解説します。

記事掲載日:2025年11月22日

方法2.本質的な成長課題に合わせて支援する

キーガン氏は、成長とは「より複雑な世界に適応できるように意味構造が変化する状態」と説明しています。そのため、発達段階ごとにつまずきやすい課題が異なる点が特徴です。

コーチは、段階4への移行期にあるクライアントに対しては、自分の価値観を客体化する問いを投げかけるなど、認知構造に直接働きかけるコーチングを提供できます。

【コーチングの現場でできること】
・今扱っても負荷が高すぎる問いを避ける
・その人の段階に合った適切な探求テーマへ導く
・表面的なスキル改善に留まらず、認知構造レベルの成長をサポートする

まとめ:成人発達理論を理解して、思考の行き詰まりを越えていこう

成人発達理論は、私たちがどのような視点で世界を理解しているのかを明らかにし、行き詰まりの背景にある認知の構造を読み解くために有効な理論です。自分の今のとらえ方を認識し、思考の行き詰まりをほぐして成長へとつなげていきましょう。

成人発達理論を対人支援に活かす際には、コーチ自身がクライアントより上位のステージを経験していないと次の段階へ導きにくい、という課題が生じる場合があります。

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※ICF(国際コーチング連盟)の基準に基づくコーチの関わり方を可視化する指標

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記事監修

ICF認定PCCコーチ/代表取締役社長 小泉 領雄南

2011年にGMOペイメントゲートウェイに入社。2016年、子会社の執行役員 経営企画室長に就任し、2020年の上場を経験。 早稲田大学MBA在学中にコーチングを本格的に学び、翌年メタメンターを設立。 国際コーチング連盟(ICF)が認定するPCCコーチ(500時間以上の豊富な実績が求められるICFの専門資格)として、MBAホルダーおよび上場企業の経営企画経験、そして元ICFジャパン運営委員としての知見を活かし、事業承継に関わる経営者・後継者向けコーチングを専門におこなうほか、コーチ・カウンセラー向けのウェルビーイング診断やCRMサービスの開発にも取り組む。

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