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【2024年版】中小企業の後継者問題:現状、課題、解決策を徹底解説

記事掲載日:2025年10月2日 
最終更新日:2025年9月9日

深刻化する中小企業の後継者問題:現状と課題

日本経済を支える中小企業ですが、近年、後継者不足が深刻化しており、企業の存続を脅かす大きな課題となっています。帝国データバンクの調査によると、2023年の休廃業・解散企業の件数は5万件を超え、その主な要因の一つとして後継者難が挙げられています。中小企業庁のデータでも、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が決まっていない企業が全体の約6割を占めるという厳しい現状が示されています。

この後継者不足は、地域経済の衰退、雇用の喪失、技術・ノウハウの途絶など、様々な悪影響を及ぼします。特に、長年培ってきた技術や顧客基盤を持つ企業が廃業してしまうことは、日本経済全体にとって大きな損失です。後継者不足は、単に企業の問題として捉えるのではなく、社会全体で取り組むべき喫緊の課題と言えるでしょう。

中小企業が抱える後継者問題の要因

中小企業の後継者問題は、複数の要因が複雑に絡み合って生じています。主な要因としては、以下の点が挙げられます。

少子高齢化による後継者候補の減少:

日本全体の人口減少と高齢化が進む中で、後継者となるべき世代の人口も減少しています。特に地方の中小企業では、若者が都市部に流出する傾向が強く、後継者候補を見つけることがますます困難になっています。

事業承継の準備不足:

経営者が事業承継の準備を先延ばしにしてしまうケースも少なくありません。事業承継には、会社の財産評価、相続税対策、後継者の育成など、様々な準備が必要となります。しかし、日々の業務に追われる中で、これらの準備を十分に行う時間が取れないという経営者も多く存在します。また、事業承継は「縁起が悪い」と考える経営者もおり、積極的に取り組まないという側面もあります。

親族内承継意欲の低下:

かつては、息子や娘が家業を継ぐのが一般的でしたが、近年では、親族が必ずしも後継者になりたいとは限りません。子供たちは、親の会社を継ぐよりも、自分の興味や才能を活かせる仕事を選びたいと考える傾向が強まっています。また、中小企業の経営は、必ずしも安定しているとは限らず、子供たちがリスクを避けるために、家業を継ぐことを躊躇するケースもあります。

経営環境の変化に対する先行き不安:

近年の経済状況や市場の変化は激しく、中小企業の経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。後継者候補たちは、このような状況下で事業を承継することに不安を感じ、躊躇してしまうことがあります。特に、中小企業は、大企業に比べて経営資源が限られているため、変化への対応が遅れがちであり、後継者たちは、将来の見通しが立たない中で、事業を承継することに二の足を踏んでしまうのです。

M&Aを活用した事業承継:中小企業の後継者問題解決へのアプローチ

後継者不足に悩む中小企業にとって、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)は、有力な事業承継の手段の一つとなり得ます。M&Aとは、企業や事業の一部または全部を、他の企業に譲渡することです。M&Aを活用することで、後継者不在の場合でも、企業を存続させ、従業員の雇用を守ることができます。

M&Aによる事業承継は、単に会社を売却するだけでなく、買い手企業との間でシナジー効果を生み出すことも可能です。例えば、買い手企業が持つ技術やノウハウ、販路を活用することで、売り手企業の事業をさらに発展させることができます。また、買い手企業は、売り手企業が持つ技術や顧客基盤を獲得することで、自社の事業を拡大することができます。

M&Aの具体例:

例えば、ある地方の老舗食品メーカーが、後継者不足に悩んでいました。そこで、M&A仲介会社に相談し、全国展開を目指す大手食品メーカーに会社を譲渡しました。その結果、老舗食品メーカーは、大手食品メーカーの販路を活用して、全国的に商品を販売することが可能となり、事業を拡大することができました。また、大手食品メーカーは、老舗食品メーカーが持つ伝統的な製法や技術を獲得し、自社の製品ラインナップを拡充することができました。

M&Aによる事業承継のメリット・デメリットと手続き

M&Aによる事業承継には、メリットとデメリットが存在します。M&Aを検討する際には、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。

M&Aのメリット:

  • 後継者不在でも事業を継続できる: 最も大きなメリットは、後継者がいなくても企業を存続させられることです。従業員の雇用や取引先との関係を維持できます。
  • 創業者利益の確保: 株式譲渡によって、経営者は会社売却益を得ることができます。この資金を老後の生活資金や新たな事業の立ち上げに活用できます。
  • 従業員の雇用維持: 買い手企業が、従業員の雇用を維持することを条件とする場合が多く、従業員の雇用を守ることができます。
  • 事業の成長・発展: 買い手企業の経営資源を活用することで、事業の成長や発展が期待できます。

M&Aのデメリット:

  • 企業文化の変化: 買い手企業の経営方針や企業文化が異なる場合、従業員が戸惑う可能性があります。
  • 売却後の関与: 売却後、経営者は経営に関与できなくなる場合が多く、寂しさを感じることもあります。
  • 情報漏洩のリスク: M&Aのプロセスにおいて、企業の機密情報が外部に漏洩するリスクがあります。
  • 希望条件との不一致: 希望する売却価格や条件でM&Aが成立するとは限りません。

M&Aの手続き: M&Aの手続きは、一般的に以下の流れで進められます。

  1. M&A仲介会社への相談: 専門家のアドバイスを受けることが重要です。
  2. 企業価値評価: 企業の価値を算定します。
  3. 買い手候補の選定: 適切な買い手候補を探します。
  4. 秘密保持契約の締結: 情報漏洩を防ぐために、秘密保持契約を締結します。
  5. 条件交渉: 売却価格や条件について交渉します。
  6. デューデリジェンス: 買い手企業が、売り手企業の財務状況や法務状況などを調査します。
  7. 最終契約の締結: 最終的な契約を締結します。
  8. クロージング: 株式譲渡などの手続きを行います。

M&A成功のポイント: M&Aを成功させるためには、以下の点が重要です。

  • 早めの準備: 事業承継の準備は、早めに始めることが大切です。
  • 専門家への相談: M&A仲介会社などの専門家のアドバイスを受けることが重要です。
  • 情報開示: 買い手企業に対して、正確な情報を開示することが重要です。
  • 従業員への配慮: 従業員の不安を解消するために、丁寧に説明することが重要です。

親族内承継、親族外承継、第三者承継(M&A):それぞれのメリットとデメリット

M&A以外にも、親族内承継や親族外承継といった選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットを比較検討し、自社にとって最適な方法を選択することが重要です。

親族内承継:

メリット:

  • 従業員の安心感: 従業員は、慣れ親しんだ後継者の下で働くことができるため、安心感を得やすいです。
  • 企業文化の維持: 企業文化や理念を維持しやすいです。
  • スムーズな移行: 親族間であるため、経営権の移行が比較的スムーズに行えます。

デメリット:

  • 後継者の育成: 後継者の育成には、時間と労力がかかります。
  • 後継者の資質: 後継者に、経営者としての資質があるとは限りません。
  • 相続問題: 相続問題が発生する可能性があります。
  • 親族間の軋轢: 親族間で意見が対立し、軋轢が生じる可能性があります。

親族外承継:

メリット:

  • 優秀な人材の確保: 親族にこだわらず、社内外から優秀な人材を後継者として選ぶことができます。
  • 客観的な視点: 親族以外の後継者は、客観的な視点から経営判断を行うことができます。
  • 事業の活性化: 新しい視点や発想を取り入れることで、事業の活性化が期待できます。

デメリット:

  • 従業員の不安: 従業員は、新しい経営者の下で働くことに不安を感じる可能性があります。
  • 企業文化の変革: 企業文化や理念が大きく変わる可能性があります。
  • 経営権の移行: 経営権の移行に時間がかかる場合があります。
  • 情報漏洩のリスク: 後継者候補に、企業の機密情報が漏洩するリスクがあります。

第三者承継(M&A): 上記で解説した通り。

事業承継の選択肢の比較: 以下の表に、それぞれのメリット・デメリットをまとめました。

承継方法 メリット デメリット
親族内承継 従業員の安心感、企業文化の維持、スムーズな移行 後継者の育成、後継者の資質、相続問題、親族間の軋轢
親族外承継 優秀な人材の確保、客観的な視点、事業の活性化 従業員の不安、企業文化の変革、経営権の移行、情報漏洩のリスク
第三者承継(M&A) 後継者不在でも事業を継続できる、創業者利益の確保、従業員の雇用維持、事業の成長・発展 企業文化の変化、売却後の関与、情報漏洩のリスク、希望条件との不一致

どの承継方法を選択するかは、企業の状況や経営者の考え方によって異なります。それぞれのメリット・デメリットを十分に理解し、自社にとって最適な方法を選択することが重要です。また、事業承継は、時間と労力がかかるため、早めに準備を始めることが大切です。専門家のアドバイスを受けながら、計画的に進めていくことをお勧めします。

後継者育成の重要性と具体的な方法

事業承継を成功させるためには、後継者の育成が不可欠です。後継者には、経営者としての知識やスキルだけでなく、人間性やリーダーシップも求められます。後継者育成は、事業承継の準備段階から始めることが望ましいです。

後継者育成の具体的な方法:

  • 経営者としての知識・スキルの習得: 経営に関する知識やスキルを習得させるために、経営セミナーや研修に参加させたり、MBAなどの専門的な教育を受けさせたりすることが有効です。
  • 現場での経験: 現場での経験を積ませることで、会社の業務内容や従業員の状況を理解させることができます。様々な部署を経験させたり、重要なプロジェクトに参加させたりすることが有効です。
  • 経営会議への参加: 経営会議に参加させることで、経営判断のプロセスや経営者の考え方を学ばせることができます。
  • メンター制度の導入: 経験豊富な経営者や役員が、後継者のメンターとなり、指導や助言を行うことで、後継者の成長をサポートすることができます。
  • 外部の専門家との交流: 外部の専門家との交流を通じて、幅広い知識や情報に触れさせることができます。
  • 経営者としての自覚: 経営者としての責任感や使命感を育むことが重要です。
  • 失敗を許容する: 後継者が失敗を恐れずに挑戦できる環境を作ることが重要です。

後継者育成の成功事例:

ある中小企業では、後継者である息子を、様々な部署で経験させました。また、経営会議にも参加させ、経営判断のプロセスを学ばせました。さらに、外部の経営セミナーにも積極的に参加させ、経営者としての知識やスキルを習得させました。その結果、息子は、経営者としての能力を十分に身につけ、スムーズな事業承継を実現することができました。

後継者育成は、一朝一夕にできるものではありません。時間と労力をかけて、計画的に取り組むことが重要です。また、後継者の個性や才能を活かし、強みを伸ばすような育成を行うことが大切です。

事業承継支援機関の活用:専門家への相談の重要性

事業承継は、専門的な知識や経験が必要となる複雑なプロセスです。そのため、事業承継を成功させるためには、事業承継支援機関や専門家のアドバイスを受けることが重要です。

事業承継支援機関:

  • 事業引継ぎ支援センター: 各都道府県に設置されており、事業承継に関する相談や情報提供、マッチング支援などを行っています。
  • 中小企業基盤整備機構: 事業承継に関するセミナーや研修、専門家派遣などを行っています。
  • 商工会議所・商工会: 事業承継に関する相談や情報提供、専門家紹介などを行っています。
  • 金融機関: 事業承継に関する融資やコンサルティングなどを行っています。

専門家:

  • M&A仲介会社: M&Aに関する専門的な知識や経験を持っており、M&Aのプロセス全体をサポートしてくれます。
  • 税理士: 相続税や贈与税など、税務に関する専門家です。
  • 弁護士: 法務に関する専門家です。
  • 中小企業診断士: 経営に関する専門家です。

専門家への相談のメリット:

  • 専門的な知識や経験: 専門家は、事業承継に関する専門的な知識や経験を持っており、的確なアドバイスを受けることができます。
  • 客観的な視点: 専門家は、客観的な視点から、企業の状況や課題を分析し、最適な解決策を提案してくれます。
  • 手続きのサポート: 専門家は、事業承継に関する複雑な手続きをサポートしてくれます。
  • リスクの軽減: 専門家のアドバイスを受けることで、事業承継に伴うリスクを軽減することができます。

事業承継支援機関・専門家活用の注意点:

  • 複数の機関・専門家に相談する: 複数の機関・専門家に相談し、それぞれの意見を聞くことで、より客観的な判断をすることができます。
  • 自社の状況に合った機関・専門家を選ぶ: 自社の状況やニーズに合った機関・専門家を選ぶことが重要です。
  • 費用を確認する: 費用について、事前に確認しておくことが大切です。

事業承継は、企業の将来を左右する重要な決断です。事業承継支援機関や専門家を積極的に活用し、慎重に進めていくことが大切です。

まとめ:中小企業の後継者問題解決に向けて

中小企業の後継者問題は、日本経済全体にとって深刻な課題です。後継者不足は、企業の廃業、雇用の喪失、技術・ノウハウの途絶など、様々な悪影響を及ぼします。後継者問題の解決には、M&Aの活用、親族内承継・親族外承継の検討、後継者育成、事業承継支援機関の活用など、様々なアプローチがあります。

事業承継は、時間と労力がかかるため、早めに準備を始めることが大切です。経営者は、事業承継を単なる引き継ぎではなく、企業をさらに発展させるための機会と捉え、計画的に取り組むことが重要です。また、従業員や取引先などの関係者とのコミュニケーションを密にし、理解と協力を得ながら進めていくことが大切です。

後継者問題の解決は、一企業の課題にとどまらず、地域経済、ひいては日本経済全体の活性化に繋がります。中小企業が持続的な成長を遂げられるよう、社会全体で後継者育成や事業承継を支援していくことが求められます。

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